花火にのせて

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.  桜春祭当日の正午、花火職人総勢三十名は安全と祭りの成功祈願の為に、河川敷の高台にある神社を訪れていた。  鳥居を潜ると屋台が所狭しと左右に建ち並び、子供にせがまれたのか屋台の前に立ち並ぶ親子連れの光景が目立っていた。  神社の前の広々とした境内の中庭では、お囃子や太鼓に合わせて踊りが披露されていて、此方は年寄りが見物席を陣取っていた。  その境内の周りは祭りの呼び名らしく、桜の木で囲まれており、満開の桜の下では花火を待てない見物客が飲み過ぎた酒に顔を赤らめて、陽気に笑い合っている。  そんな見物客も法被姿の花火職人が横を通り過ぎると、拍手や指笛で桜春祭の花形を盛大に迎え入れる。  歓迎の歓喜が彼方此方で響き渡る。  好晴を先頭に境内の前に立ち止まると、賽銭箱に賽銭を各々放り投げて、紅白に編まれた綱を好晴が二、三度左右に大きく振ると、大鈴の音色が辺りに響き渡った。  好晴の合図と共に全員で手を二回叩くと、正面の神様に安全と祭りの成功を祈願した。 「ユウちゃん!」  祈願を終えた優介を幼なじみであり、今は恋人の静風(そよか)が境内の袂で優介を呼んだ。 「優介、まだ二時間ばかり時間あるから祭りでも見物して来い」  好晴が、さり気なく二人を気遣った。 「あっ、すみません」  優介は好晴にお礼を言うと列から外れて静風の元へ駆け寄った。 .
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