5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
.
「はい、これ」
静風は紙袋から白い法被を取り出して優介に手渡した。
静風は桜の花びら柄の浴衣を纏い、髪は頭の上で束ねていた。
「ん?」
優介は受け取った法被を広げると、法被の背中に施された刺繍を見て言葉を失っていた。
「……、桜花乱舞」
優介は淡い桃色の糸で桜花乱舞(おうからんぶ)と施された刺繍の文字を呟くように読むと、その視線を静風に移した。
「うん! 桜花乱舞、ユウちゃんが今夜打ち上げる桜の花火」
「……、静風」
「ユウちゃん!頑張ってね、成功、祈っとるけん」
「……、ありがとう」
二人は境内の脇のベンチに腰を下ろすと、高台から見える博多川を見下した。
そのベンチの後ろには一本の枝垂れ桜が二人を覆うかのように、伸びた枝を風に揺らしていた。
時折、優しく舞う風に桜の花びらも舞う。
風に舞う花びらと静風の浴衣の桜柄が混じり合うと、優介が静風を見つめた。
「‥‥、静風‥‥、今夜、桜花乱舞が打ち上がったら母ちゃんのこと……、お母さんって呼んでくれんね」
「えっ?」
「……、桜花乱舞がオレのプ、プロポーズやけん」
「……、ユウちゃん‥‥」
「なんか悪かね‥、気の利いたことが言えん」
「ううん、ユウちゃん!ありがとう!」
静風は優介の厚い胸元に飛び込んで頬をすりよせた。
優しく受け止める優介の足元に桜の花びらがひらりと落ちた。
.
最初のコメントを投稿しよう!