花火にのせて

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. 「はい、これ」  静風は紙袋から白い法被を取り出して優介に手渡した。  静風は桜の花びら柄の浴衣を纏い、髪は頭の上で束ねていた。 「ん?」  優介は受け取った法被を広げると、法被の背中に施された刺繍を見て言葉を失っていた。 「……、桜花乱舞」  優介は淡い桃色の糸で桜花乱舞(おうからんぶ)と施された刺繍の文字を呟くように読むと、その視線を静風に移した。 「うん! 桜花乱舞、ユウちゃんが今夜打ち上げる桜の花火」 「……、静風」 「ユウちゃん!頑張ってね、成功、祈っとるけん」 「……、ありがとう」  二人は境内の脇のベンチに腰を下ろすと、高台から見える博多川を見下した。  そのベンチの後ろには一本の枝垂れ桜が二人を覆うかのように、伸びた枝を風に揺らしていた。  時折、優しく舞う風に桜の花びらも舞う。  風に舞う花びらと静風の浴衣の桜柄が混じり合うと、優介が静風を見つめた。 「‥‥、静風‥‥、今夜、桜花乱舞が打ち上がったら母ちゃんのこと……、お母さんって呼んでくれんね」 「えっ?」 「……、桜花乱舞がオレのプ、プロポーズやけん」 「……、ユウちゃん‥‥」 「なんか悪かね‥、気の利いたことが言えん」 「ううん、ユウちゃん!ありがとう!」  静風は優介の厚い胸元に飛び込んで頬をすりよせた。  優しく受け止める優介の足元に桜の花びらがひらりと落ちた。 .
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