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静風と別れて打ち上げ花火の上げ場に優介は戻っていた。
クレーン車に吊られた打ち上げ花火の材料が次々と地面へ降ろされていく。
降ろされた材料を定位置に運び出し、打ち上げ花火の準備は順調に進んでいた。
優介は桜花乱舞の尺玉を入れる大筒の取り付けに余念がなかった。
「天気も味方してくれたな」
親方の好晴が優介の背中に声を掛けた。
「はい、この春一番ったい」
優介は大筒に縄を巻き上げながら、額の汗を手の甲で拭った。
好晴は縄を硬く巻き上げる優介の背中を見つめながら、優介が花火職人として弟子入りしてからの十年間を走馬灯のように頭の中で捲っていた。
「色は出せても枝垂れ桜の花びらは空には描けん」
優介の父が描いた設計図を見ながら好晴は、短くなった煙草をアルミの灰皿にねじ込んだ。
「父ちゃんはきっと出来るって毎日言うとったけん、出来るったい」
弟子入りした頃のあどけなさがまだ残る優介は、根拠のないまま、ただ父の言葉を信じていた。
文明が発達した昨今では、打ち上げ花火の構想や設計をパソコンで処理する事が可能な時代になった。
それでも枝垂れ桜を空で開花させる事は困難だった。
十年越しの様々な苦難と歴史が優介の背中を見つめる好晴と、大筒に縄を巻き上げる優介の脳裏で重なっていた。
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