花火にのせて

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. 「おばちゃん、来ちゃった」  浴衣姿の静風が優介の母、春子の病室を訪ねた頃には、西日がとっくに姿を隠した夕刻だった。 「あらっ静風ちゃん、べっぴんさんになって」 「やだぁ、照れます」  静風は病室の白いカーテンをゆっくり開けると窓のロックを解錠した。 「おばちゃん? 今年は見て欲しいんだ」  窓をゆっくり開けながら、静風が外に向かって静かに言った。 「静風ちゃん、ごめんね。音だけ聴くけん」  春子は静風の淡い桃色の浴衣の帯の結び目をじっと見ていた。 「……、ユウちゃんがね、どうしてもおばちゃんに見て貰いたくて、先生に無理言って病室変えて貰ったの」 「……」  静風は振り返るとベッドに近寄って春子の右手を両手で握りしめた。 「今夜……、やっと、打ち上げるの」 「何をったい?」 「……、おじちゃんが打ち上げたかった、おばちゃんが大好きな桜……」 「えっ!、できよったんかいね?」 「うん、十年掛けてやっと……」 「そうね!」 「……、だから見てあげて欲しい……、桜花乱舞」 「なんね、オウカランブって」 「ユウちゃんがね、つけた花火の呼び名……、桜の花に、乱れ舞うって書いて、桜花乱舞」  静風の瞳から涙が頬を伝うと、春子の瞳から涙が枕に落ちた。 .
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