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二人分の麦茶を用意しながら、俺は今回を諦める決意をした。
お茶飲んだら、今日は、帰ってもらおう。
……彼氏のフリ最終日に告白しよう、そうしよう。
告白期限を延長した弱虫が、麦茶の入ったを抱えて部屋に戻る。
部屋に入ってすぐ、その光景に目を疑った。
俺のベッドで横になって、うたた寝している小春さんがいた。
危機感の無さ……というか、こんなん、ただの据え膳……。
頭をブンブンと振って、邪念を追い払う。
小春さんは、姉ちゃんの弟である俺を信用して、気が抜けた姿を見せてくれているんだ。
麦茶をローテーブルに置く音で、彼女は目覚めた。
「あ……、ごめん、最近、試験勉強して寝不足で……ベッドがあるからつい……」
小春さんは、小さな口を目一杯広げて欠伸をする。目尻に涙を溜めて、ベッドから起き上がろうとしない。
あのさぁ……。
「お布団、フカフカだねぇ」
小春さんは幸せそうに、俺が毎日沈み込んでいる枕に頬を擦りつける。
プツン。
それをきっかけに、俺の中で、何かが切れる音がした。
ベッドに寝転ぶ彼女に近づく。
「…………」
「え?」
俺は彼女の上に覆い被さった。
シングルベッドが二人分の重さに悲鳴をあげる。
「どうしたの? ……顔、怖いよ?」
「誰の部屋でも、誰のベッドでも、こういうことするんですか?」
「何が?」
キョトンとする彼女の細い手首を、ベッドに縫い付ける。
小春さんは腕の自由を奪われて、怪訝そうな顔になるものの、抵抗する素振りはない。
俺は続ける。
「俺は、『親友の弟』でも、『無害な後輩』でも、ありません」
「……? さっきから何の話? どういう意味?」
男の部屋で、ベッドの上に押し倒されて。
なんでそんなに、何が何だか分からないって顔できんの?
ここまで鈍感なのは、もはや罪だ。
「俺も男だって言ってんの」
小さな口。
柔らかそうな唇に噛みつこうとした、その時。
「何やってんの!?」
姉ちゃんが、開けっ放しだったドアから怒鳴った。
ハッとして、小春さんを見る。
「……っ」
俺の下で、いつも明るく声の大きい彼女が、声を噛み殺して泣いていた。
――最悪だ。
姉ちゃんが俺の胸ぐらを掴んで、凄む。
「合意なら構わないけど、小春を傷つけるならアンタでも許さないよ!!」
「いいの、霙。私が悪いから、いいの」
涙をボロボロ流しながら、小春さんが姉ちゃんを止めようとする。
温厚な姉ちゃんがブチ切れ、明朗快活な小春さんがボロ泣きしている、異様な光景。
自分のしでかしたことの重大さを自覚して、俺は家から飛び出した。
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