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マサがいつものように肉屋でコロッケを堪能していると、
「マサさ~ん」
清香が駆け込んできた。
制服が乱れて本人も泣きじゃくっている。
「どうした、清香?」
マサはコロッケを食べるのをやめると清香に聞いた。
「警察に捕まるかも」
泣き崩れる清香を支えてイスに座らせる。
肉屋のおばちゃんも心配そうに見ている。
「落ち着いて何があったかを話すんだ」
清香の肩に手を置き、安心させるように声を掛けるマサ。
「先輩の友達とご飯食べに行ったらお小遣いくれるって言われて」
それ以上は言葉が続かない清香。
「それって援交じゃねぇか?何かされたのか?」
必死に首を振る清香。
「相手からお金貰ったのか?」
「ううん。友達って聞いてたのに来たのおじさんだったから、おかしいと思ってなんとか逃げて来た」
「そうか。ならお前は何も悪くない。安心しろ」
マサはそう言うと清香をギュッと抱き締めた。
「おばちゃん、この子任せていい?」
「分かったわ。でも、マサ君どうするの?」
「俺はちょっとケジメつけてくる」
そう言うと、マサは駆け出して行った。
「ちっ、雨か。まるで清香の心みたいじゃねぇか」
夕立の中に消えていくマサ。
それからしばらくマサが肉屋に顔を見せることはなかった。
清香は毎日のように来ていたが、そんな清香の元を訪ねて来たのは尾津という年配の刑事。
清香が援交に関わっているかの確認だったので、キッパリと否定しておいた。
その刑事にマサのことを聞いてみたが「あいつなら大丈夫だよ」の一言で詳しくは教えてもらえなかった。
その後、清香は悪い仲間達とはキッパリと縁を切り、普通の中学生活に戻ったらしいということを人伝にマサは聞いた。
「あ~、腹減ったなぁ」
マサが久しぶりに肉屋を訪れると、おばちゃんは何も聞かず嬉しそうに迎えてくれた。
「メンチカツ1個サービスしとくわね」
「やったぁ~、あんがと」
相変わらず嬉しそうにコロッケを頬張るマサ。
ザザァー
お決まりの雨。
「うわ~、ビショビショ」
そこに一人の女の子が駆け込んできた。
(まさか)
あのマサがコロッケそっちのけで女の子の方に目を向けると、
「お前俺のカバンまで防御に使うなよ」
後に男も続いている。
それは清香とは別人で、しかも男連れ。
(・・・んなわけねぇか)
「ゴメン、おばちゃん今日傘忘れちゃって。なにせトモが今日は晴れって言ってたから」
「ちょっとなに人のせいにしてるのよ。ナオが折り畳みぐらい持ってくればよかったのに」
トモと呼ばれた女の子が反論している。
「はいはい、夫婦漫才はいいから。やむまでゆっくりしていきなさい」
おばちゃんが笑っている。
どうやらあの二人も常連らしい。
二人のやり取りを見てついマサも「プッ」と吹き出してしまった。
「お前のせいで笑われたじゃねぇか」
それに気付いた男の方が頭をかきながら女の方に文句。
「も~、うるさい。ごめんなさい」
女の子が頭を下げてきたので手で制すと、マサは視線を屋外へ。
「今日もよく降るなぁ・・・大丈夫かなぁ」
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