夏休みの彼

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 あれから八年。  僕は高校二年生になった。 「今日は、教育実習生を紹介します。みんな、困らせたりしないように!」  先生と共に、スーツを着た若い男の人が教室に入ってくる。  背筋をピシッと伸ばして、緊張気味のその顔は、 「荒川智史(あらかわさとし)です! この学校の卒業生で、世界史担当です」 「智史!?」  僕は思わず声をあげて立ち上がってしまった。  クラス中の注目が集まる。 「あれ? 翼? 久しぶりだな〜!」  知り合いの顔にホッとしたのか、見慣れた笑顔でブンブンと手を振ってくる。  なんで……同い年じゃ……。  いや、年齢を確認したことはない。身長が同じくらいだから、勝手に同い年だと思い込んでいただけだ。  ……まさか、こんなに年上だったなんて! 「ゴホン!」 「あっ」  先生の咳払いに、智史が怯える。 「教育実習生ですけど、一応『先生』って呼んでください。よろしくお願いします!」  ぱちぱちぱち。  生徒たちの拍手。僕は唖然としたまま動けない。  子供の頃の友達と再会するなんて、そんな偶然。  次は『先生』として、会うなんて。  出会いを持ってきた夏を、校舎の外でセミたちが歓迎していた。
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