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「なんですか?」  スイが、真っ直ぐこちらを見ている。   「……なんでもない」    いえるわけない。  わたしは、真っ直ぐな瞳から目を逸らした。  沈黙。  スイは不思議そうな顔もしなければ、問い詰めることもしなかった。 「それじゃ、先に戻りますね」  大きな手のひらが涼しげに揺れる。  耳元のクラゲも、ちらと揺れる。  切れ長の瞳が短い黒髪に遮られ、その背中もやがて廊下へと消える。  その後には、ただ雨の音。  しとしとと、湿っぽい土を柔らかく叩く。  わたしも、自分の部屋に戻った。
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