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「クラゲって空飛べそうですよね」
「え、どういうこと?」
「雨降ってたら空も海も変わらないじゃないですか」
隣を窺う。
灰色の窓を背景に揺れるガラスのクラゲは、確かに海を泳いでいるようにも、空を飛んでいるようにも見えた。
空。
もし、あらゆる作り話の通りなら。
いわゆる天国というやつが、あの向こう側にあるということ。
「天国いけるかな」
随分と幼い質問が飛び出した。
しかし、こういう中身のない質問に対して、スイはいつも、案外真面目に答えてくれる。
「うーん、私は地獄ですかね」
「え、なんか悪いことしたの?」
「それはもう、たくさん」
気になる。
でも、訊かない。
わかる。
これは、訊いても答えてくれない質問だ。
「……地獄嫌じゃないの?」
「むしろ天国よりいいかと」
「え、なんで?」
「パン焼き放題じゃないですか、地獄」
そりゃ、地獄自体釜戸みたいなイメージはあるけれど。
地獄でパン焼く人いる?
そもそも、閻魔さまが許してくれないでしょうよ。
「……わたしも地獄にしようかな」
「そんなに私のパン食べたいんですか」
スイが小さく肩を揺らす。
スイが笑うと、クラゲが泳ぐ。
クラゲが泳ぐと、ココナッツが香る。
よくできてるな、とわけもなく思った。
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