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最後の一日も、最後じゃない一日と同じだけの時間が流れる。
画材を片付けて、カップを片付けて、夕飯を食べて、シャワーを浴びて。いつの間にか、昼も夕方もどこかへ消えて、気づけば夜になっている。
シャワーの後は、二人ソファに座って映画を観た。多分、友情の話。頭を空っぽにして観たので、正直ストーリーはほとんど覚えていない。ただ、やけに光が綺麗な映像だった。
黒い画面に、ゆったりとエンドロールが流れている。二人とも、何も言わない。先に言葉を発したのはスイだった。そしてそれは、ようやくエンドロールが最後まで流れ切った後だった。
「そろそろ戻りましょうか」
「……うん」
ソファを立とうとして、しかし、腰が上がらなかった。何かに引っ張られたように、再度背もたれに体重を預ける。
今朝、チープなクロワッサンと一緒にかみ砕いたはずの、あのもやもやが、いつの間にかまた胸中に渦巻いている。
スイは、さっさと廊下へ向かっている。
その背中が遠ざかるにつれ、もやもやも嵩を増していく。
もやもや、もやもや――。
「ねえ、」
すんでのところで、しゃっくりを抑えたみたいな声が出た。
スイが立ち止まる。黙ってこちらを振り返る。目が合う。
しまった、と思った。
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