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子供の次
人形を抱いていると、ときどき語りかけてきた。
「今日は何をしたの?」
「いつもと一緒だよ。学校に行って、また忘れ物をして、散々だったんだ」
「どうしていつも忘れ物してしてしまうの?」
人形は不思議そうにしていた。
「明日の時間割をちゃんと確認しないからかな」
「当たり前のことができてないんじゃない」
そう言われると、わかっているのに腹立たしくなってしまう。
「そうだけど、私は別に本来学校なんかに行きたくないんだよ。行く気もないのに、行かないといけないから、持ち物の準備にまでやる気が起きないんだ」
人形はかすかに上目遣いをしている気がした。
「……それは、やるせないね。忘れ物をしてしまうのも仕方ないかもしれない」
「そうでしょ、私には学校に行く、行かない、という選択権はないんだよ。何が何でも、学校には行かなくてはいけないんだ。子供ってそういう立場で、学校ってそういう所なんだ」
人形は今日も、味方とも敵ともつかないような素振りだ。無表情とはそういうものだ。
「心美ちゃんも色々大変なんだね」
「そうだよ、子供ってとても大変なんだよ。意思があってもないようなものだからさ」
「それじゃ、いつか大人になったら、もう少し自由に生きられるようになるのかな?」
人形はなんて無邪気な質問をするんだろう。大人と話したことがないんだろうか。
「大人は子供が大きくなった姿だよ。それで本質が変わるわけないでしょ」
人形はそれきり話さなくなった。心美は思い切り握り潰していた人形を、慌てて棚に戻すと、どうにか、ふっと息を吹き返したように見えた。
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