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バイト先から帰る途中、声を掛けてくる人がいた。
「──ユキナちゃん?」
振り向くとそこには帽子とサングラス姿の女が、小走りにこちらに駈けてくるところだった。
「ユキナちゃんだよね? 覚えてる? 小学校の時一緒だった舘野美奈」
長くてキレイな髪、艶のある肌、ふわっと香った香水の匂いが、あの時の激しい苛立ちを思い出させる。
「えっ、美奈!? 覚えてる覚えてる! え~全然わかんなかった! 久しぶり~!」
「ほんとに久しぶり! ユキナちゃんは今何してるの?」
……何その余裕。上から目線で何様のつもり。
「……今は、フリーター」
「あ、そうなんだ」
少し気まずそうな美奈。そりゃ環境活動家なんてご立派な仕事してる人からしたらフリーターなんてゴミみたいなもんでしょうよ。
「でもほんとに懐かしいな。昔は色々くれたよね、服とか靴とか」
そこで美奈は思い出したように、肩に掛けてたバッグを見せてきた。
「ユキナちゃん覚えてる? 昔サマージャケットとカバンくれたことあったよね」
美奈が見せてきたのはバケットバッグだった。口が金具じゃなくて紐で閉じるようになってるやつ。側面は涼し気なライムグリーン、紐は白、底と持ち手は深緑。……こんなオシャレなの、美奈にあげた記憶ない。っていうか見たことすらない。
「これね、昔ユキナちゃんにもらった服とカバンを使ってるんだよ。側面はジャケットで、底と持ち手はカバンなの。
海外の有名なデザイナーさんに作ってもらったんだけど、その人も環境問題に興味があって、私の公演を聴いて共感したって言ってくれて、すっかり意気投合しちゃって──」
昔は口数も少なかったくせにペラペラ喋りながら、美奈は笑った。得意気に──愉しそうに。
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