「あたしの、けらいになって」

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 あの子に出会ったのは、小学一年生の最初の授業でした。 「へえ、『なずなちゃん』っていうの? あたしはね、『なな』っていうんだよ。なんか名前似てるね」  最初に話しかけてきてくれたのは、あの子……「ななちゃん」からでした。  小学校のいちばんはじめの授業は、「周りの人と自己紹介し合いましょうの時間」でした。  正直、あんまり楽しくなかったです。  まず、大きな白い紙に、自分に関すること(好きな食べ物や飼っているペット、言われて嬉しい事に趣味まで……とにかくたくさんのこと)をいっぱい書き連ねます。  白い紙が真っ黒に埋まったタイミングで、先生は教室の中の生徒たちをその場に立たせます。  そして、ストップウォッチ片手に「よーい、スタート!」と言うのです。  そこから十五分間は「自己紹介タイム」と呼ばれる時間で、教室のクラスメイトたちに声をかけて自分の自己紹介をしなくてはいけなかったのです。  同じ人に何回も声をかけるのは当然ダメだし、ひとりぼっちでウロウロしていれば先生に捕まって「どうしたの?」と声をかけられ手を引かれるし、……今思い出しただけで、お腹が痛くなってきます。  当時のわたしは、今以上に引っ込み思案で、知らない人がいっぱいの学校という場所が怖くて怖くてたまりませんでした。家を出た瞬間から、うまく口を開けない女の子だったのです。  そんな風にぼんやり困ったようにその場に立っていたわたしに……「ななちゃん」は気付いたのでした。 「へえ、『なずなちゃん』っていうの?」  ななちゃんの席はわたしの左斜め後ろでした。  ちょんちょん、とわたしの肩を叩いてななちゃんは明るく声をかけてきたのでした。  わたしの胸についた名札を見ながら、ななちゃんはニッコリ笑いかけてきます。  ななちゃんは、フリルのついた可愛いスカートを履いていました。  わたしはそういう女の子らしい洋服をあんまり持っていなかったので、なんだかドギマギしてしまいました。  頬が熱くなって、なんだか恥ずかしい思いが湧いてきたのを、今でもよく覚えています。  ……でも、話しかけてくれてすごく嬉しかったです。  その「嬉しかったよ」という気持ちだけは、絶対に否定したくはないなと、今だからこそ強く思います。
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