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新人研修
そのまま浮上する意識に任せてゆっくりと目を開いた。黑と白ばかりの会場でゆっくりと線香の煙が昇る。
「初仕事、ご苦労さま」
後ろにしゃがんだ先輩が線香の匂いのする煙草を吸いながら律儀に声を掛ける。
「…居たんですか」
「当たり前じゃん。新人の仕事を見守るのも先輩の仕事だよ」
うっすらと色のついた羽をゆらしながらうさん臭く笑った。
「初”魂送り”、上手くいって良かったじゃん」
「上手く、出来たんですか、あれで」
軽薄そうなその顔を睨みつけて言うとおどけたように肩をすくめる。
「ちゃんと連れて行けたじゃない。立派な成功だよ」
上手くできなくて戻ってこれない奴なんてざらにいる。荒んだ様な気配を一瞬出して先輩が呟く。
これは天使の仕事だ。みんな転生する権利を得るために、死んだ人の魂をあの世まで導く。けれど中には現世に執着する魂に引き摺られて戻ってこれなくなる天使も多い。
それを少しでも防ぐために、初仕事ではこうして、生前見知った相手を送り出すことになるのだから。
「あんまり、楽しい仕事じゃないですね」
「でも転生したいんだったら、やらなきゃいけない」
肩をすくめる先輩に、溜息を吐く。
「本当に、嫌な仕事です」
背中の真っ白な羽の先端には、うっすらとだか色づいている。この羽が『何色』かを持つまで、この仕事を続けなければならない。
送り出していく彼らから少しずつもらうこの色は、転生した後の人生を左右するらしい。よっぽど慎重に混ぜ合わせなければすぐ偏ってしまうこの色は、綺麗な灰色になるのが理想らしく、おれは未だにどう色を選んだら良いのか分からない。
やっている内に分かるよ、と笑う先輩の顔は何だか楽しそうで、嫌な予感がした。
「先輩の顔って、むかつきますね」
「えー?ほめてる?」
「何でそうなるんですか」
「なんかにやにやしてるから」
俺は顔をしかめて見せながら、幼馴染に似てると思ったことを胸に仕舞った。
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