59・決意の朝飯はアボカドの味噌汁

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59・決意の朝飯はアボカドの味噌汁

 すっかり酔い潰れたカヲルさんを背負い、タクシーを探した。カヲルさんはすぅすぅと俺の背中で寝息を立てている。 (寂しいと思ってくれてるんだろうか)  カヲルさんの口からは俺のシンガポール行きを喜ぶ言葉しか出てこなかったけど、少しでも俺の不在を寂しいと感じてくれたのなら嬉しいし、だけど、心が痛い。 「カヲルさん、着きましたよ」  タクシーから降りても脱力したままだったので、もう一度背負って部屋まで連れて行く。 「カヲルさん、カヲルさん。部屋入りますから、鍵貸して下さい?」  俺の声が聞こえたのか、ん? と小さく返事のようなものがあって、カヲルさんがゴソゴソと上着のポケットを探り出した。俺の背中でんー、と声を上げながらポケットのあちこちを叩いているようだ。カヲルさん、そんなとこに鍵なんてしまってないでしょ? 可愛すぎるな? 「鞄ですよね? 開けますよ?」  カヲルさんが落ちないように前傾姿勢で鞄を探り、外ポケットに入っていた鍵で、玄関のドアを開けた。  カヲルさんの上着を脱がせ、ネクタイとベルトを緩めてベッドに寝かせる。この状況ではさすがにムラムラは出来ないし、かといってこのまま置いては帰れない。俺はソファーで寝かせてもらうことにした。  カヲルさんに布団を掛けて寝室を出ようと立ち上がった時、俺の上着が掴まれた。 「カヲルさん?」  カヲルさんは何も言わず目を閉じたままだ。その無言に込められた想いが、掴まれたところから激流のように流れ込んでくる。  同じ想いを分かち合っているんだ、俺達。柔らかい髪を撫でてキスをして、優しくカヲルさんの手を解く。 「おやすみなさい」  そっと隣に潜り込み、カヲルさんの頭の下に腕を差し入れた。  すり、と顔を寄せてくるカヲルさんを抱き込んで、朝までずっとそうしていた。 「洞木君、洞木君。シャワー浴びて下さい。朝ご飯作りましたから」  身体を揺さぶられてうあ……と俺は目を開けた。眼の前でカヲルさんが笑っている。 「ほら、起きて下さい?」  言われた通りにシャワーを浴びて部屋に戻ると、炊き立てのご飯が湯気を立て、ネギだれのかかった美味しそうな出汁巻き卵が今まさに皿に乗せられるところだった。 「カヲルさん……シャワーありがとうございました。今日もめっちゃ美味そう……俺、元気に働ける……」 「冷めるから早く食べましょう」  いただきます、と手を合わせて味噌汁のお椀を手にした。中には見慣れない食材が具沢山によそわれている。 「ん? これってもしかして?」 「意外に美味しいんですよ、食べてみて下さい」  アボカドとしめじ、あとツナ? 和の味とは真逆かと思ったが、食べてみると味噌と相性ばっちりだ。和と洋を繋いでるのは、 「オリーブオイルと、バターを少し」 「なるほど! それでこんなぴったりなんですね」 「お腹が空いているだろうと思って、食べ応えのある感じにしてみました」 「うまいでふ」  これは箸が止まらない。カヲルさんは俺の食いっぷりに目を細めていたが、箸を置くと恥ずかしそうに俯いた。 「昨晩はすみませんでした」 「いえ、酔っ払ったカヲルさんを見れたのでラッキーでした」 「また、そうやって……」  俺はテーブルの上に置かれたカヲルさんの手を、そっと握った。 「カヲルさんには離れてほしくないって思ってたくせに、俺」  カヲルさんは目を上げると「それは違います」と、優しい声色で俺の言葉を打ち消す。 「これは洞木君のチャンスだし、これを活かさない選択肢はありません。私は何があってもあなたを応援します」  その声が、俺の心を奮い立たせた。この仕事を成し遂げたら、カヲルさんにプロポーズしよう。
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