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61・恋のライバルとご対面!?
望月の仕事は早かった。
俺が会社へ着いた頃には、参加メンバーに連絡を取り会議の場所を押さえ人数分の資料を揃えて、後はweb会議用のカメラとマイクをセッティングするだけになっていた。
「望月デキるな」
「こういう時に株を上げとくのがポイントなんだぜ?」
望月のヘタなウインクを見せられるとは思わなかったが、おかげで少しは上がりの時間が早まる。望月の段取りの良さに感謝した。
会議用のモニターや周辺機器を調整して回線を繋げてみる。ドイツからの映像はまだ未接続のままだが、アメリカにいる関連企業の役員はさっそくスタンバイをしてくれていた。まあドイツは真夜中だろうから社長の招集にてんやわんやかもしれない。
「赤池さん、お疲れ様です。この度は急なお願いで申し訳ありません」
アメリカにいる赤池さんは商品開発部の元部長だ。一緒に仕事した事はないが名前は知っている。望月の呼びかけに赤池さんは気の良い返事を返してくれた。
「社長の一声だからな、こればかりは仕方ない。君達もお疲れ様、なるべく早く終わらせよう」
「よろしくお願いします」
他の参加メンバーも慌ただしく席に着いた。八代さんも若干疲れた様子で、社長の後ろから入室した。
「やあみんな、休日に呼び出してしまってすまない。私が暫く日本を不在にする事になってしまってね、ミーティングを開くタイミングが今日しかなかった。赤池君も、ああ映像が繋がったね、江坂さんも。ご協力感謝します」
俺は息を呑んだ。
社長の挨拶で始まったミーティング。海の向こうから送られてくるもう一つのモニターに映っていたのは、江坂教授だったのだ。
各々が事前準備を怠らなかったおかげで、社長からの鋭い質問や提案に誰一人窮することなくスムーズにミーティングは進んだ。映像で参加した二人は流石の情報分析力で、その豊富な知識と経験に俺は舌を巻いた。
(江坂教授……カヲルさんが尊敬するだけのことはある)
仕事は仕事、プライベートはプライベートだ。俺はチャンスを逃すまいと彼等を質問攻めにした。社長も隣にいた八代さんも、ほう、と満足そうな顔で俺を見ていたから、多少なりとも意気込みは伝わったんじゃないかと思う。
白熱したミーティングは無事夕方前に終了した。社長も安心して留守を任せられる、とご機嫌で退出したことで、八代さんも俺と望月に(よくやった)というような目配せを送ってくれた。他のメンバーともガッツポーズをして閉会となった。
「望月、片付けは俺がやるよ。朝は助かったからな」
「お、そうか? じゃあ頼む。オレ、八代さんの手伝いしてくるわ」
「さすが望月、抜かりないな」
予想より早く終わったことで、俺も軽口を叩く余裕があった。片付けを終えてカヲルさんを迎えに行っても、夕方デートにはなんとか間に合いそうだ。昼間の予定は潰れてしまったが、休みはまだある。カヲルさんの誕生日をいい思い出で満たしたい。
はやる心を抑えて誰も居なくなった会議室を片付け始めた時、モニターの回線がまだ切れていないのに気が付いた。
赤池さんの方の映像は暗くなっている。この繋がっている方の回線は──
「洞木君、と言ったね。会議室は今君だけかい?」
モニターの向こうで紳士的な微笑みを浮かべる江坂教授と、俺は対峙していた。
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