66・白衣の天使は良い匂い※ 終

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66・白衣の天使は良い匂い※ 終

 とかなんとかロマンティックな夜は更け……なんて一回戦で終わる筈もなく、オオカミの牙剥き出しの俺は正常位、バック、と攻め立て、それでも足らずにベッドに手をつかせ背後から盛ろうとしてさすがにカヲルさんに怒られた。 「今日はもう終わりです! お風呂でするのもなし!」  先手を打たれた。 「じゃ、お風呂出てからもう一」 「寝ます」  ……打つ手なしか。  大人しくシャワーを浴び備え付けのガウンを身に着けて風呂から出てくると、一足先に部屋に戻っていたカヲルさんは、ガウンから出るすらりとした脚を軽く組み、窓際の椅子に座って夜景を眺めていた。 「カヲルさん? 寒くないですか?」  俺の問いかけにゆっくり振り向いたカヲルさんは、ふわりと薫るように微笑んだ。 「全然。いいお風呂でした」  そう言うとカヲルさんはベッドに移動し、ポンポンと自分の隣を叩いた。 「さ、もう寝ましょう」  やっぱりワンチャンなかったか。俺は少しだけ肩を落としながら、でもカヲルさんの隣を得られる幸せに暖かな気持ちを巡らせた。  俺がカヲルさんの頭の下に腕を伸ばし、カヲルさんは俺の方を向いて遠慮がちに足先を絡める。こんな二人の習慣も俺がシンガポールに行けば暫くお預けだ。このぬくもりを感じられない夜が始まるのかと思うと、情けないが寂しい気持ちでいっぱいになる。  両手を温めるように口元に当てていたカヲルさんが、その手を俺の頬に添えて言った。 「今夜は私の誕生日会なんですよね。私の言うこと、聞いてもらえますか?」 「何でも聞きます、なんでしょう」 「……ぎゅっとしたまま、寝たいです」 「……はい」  もう片方の腕を広げると、カヲルさんの方から俺の胸に顔を埋めてくれた。大好きなカヲルさんの匂いが鼻腔をくすぐる。 (あ、ちょっと泣きそう)  胸を締め付けられる想いに、俺はつい腕の力を強めてしまう。そんな俺の背中をそっとさすりながら、カヲルさんが小さい声で言った。 「洞木君の事、日本で待ってますから」  俺はさっき、ちらっと見たのだ。カヲルさんがボールペンの試し書きをした時のメモ帳。カヲルさんは書いた部分をびりっと破いてすぐに捨ててしまったけれど。  〈愛してる〉  カヲルさんの隠し事のない真実の心が、俺の心を光のもとへと引っ張り出してくれた。 「愛してる」  カヲルさん、 「愛してる」  腕の中の愛しい人は、俺の声を聴くと「……はい」と、小さく呟いた。  ──翌朝、ワンチャンOKの許可が下りた。俺もカヲルさんも泣きそうな程に、極まった。  それから一ヶ月後、俺は日本から七時間離れた異国の地へと旅立った。 ────────── 「お帰りなさい、洞木君」  俺達の他には誰もいない夜の研究室。  半年ぶりの日本。来週にはまたシンガポールへ戻らなければならないが、この一週間は持ち帰った仕事をこなしつつカヲルさんとの時間を満喫しようと心に決めて戻って来た。 「お疲れ様でした」  カヲルさんがはにかみながら俺の首に腕を回してくれる。 「お願い聞いてくれてありがとうございます」  俺の白衣の天使。  きちんとボタンを閉めた白衣の下には、何も身に付けていないことを俺は知っている。 「見せて」  恥じらいながらもカヲルさんは白衣のボタンを一つずつ外していく。中から現れるしなやかな肢体。  白衣をはだけさせたまま抱き締め、もつれ込むように応接ソファーに押し倒す。肌の感触を楽しみながらカヲルさんの襟足をかきあげ、うなじの匂いを嗅いだ。足りない栄養を補うオオカミのように。  びくっと身体を硬くしたカヲルさんを抱き起し、俺の顔の上にカヲルさんが跨るような体勢を取らせる。 「え、ちょ、そんなことしたら洞木君の顔に……私の……」 「そうですよ、俺の方に向けて下さい? すぐ舐められるように全部脱いでいてもらったんですから。カヲルさんは、俺のを舐めて下さいね?」  再会して数分もしないうちに、カヲルさんの仕事場で、上半身と下半身を互い違いにするなんて、まるで本当の獣みたいだ。  卑猥な格好に気後れしていたカヲルさんも、じきに俺の顔に押し付けるように腰を揺らめかせ出す。あの可愛らしい口が、俺のを咥えてしゃぶっている。ちょっと前じゃ信じられない光景だが、カヲルさんは快感に素直な身体へとどんどん進化しているのだ。 「あっ、うつひ、うん、ひもひ、いい?」  俺のものを舐めながら背後の俺に目線を流す仕草も最高にいやらしい。 「気持ちいい、です。たまらない」 「あ、っ……もう、あまん、れひない、」  我慢できないと言うカヲルさんに、俺が我慢出来なくなった。カヲルさんの口をそっと外すと、俺は上体を起こして四つん這いのカヲルさんの背後に身を重ねた。  カヲルさんのうなじはますますそそるような匂いを撒き散らす。綺麗なピンク色を見せつけるように広がった花弁に、滾ったものをゆっくりと押し込んだ。 「はぅ……んっ」  カヲルさんが俺を吞み込んで嬉しそうにしている。  俺の還るところだ。初めは優しく、だんだん深く、カヲルさんを丹念に味わった。 「ああ……カヲルさん、やっと、帰ってきた」 「んっ、も、いく……あ、」  言葉にならない声を発した後、数回大きく痙攣して、カヲルさんは達した。意識を飛ばしたその身体に白衣を着せ掛け、俺の膝にカヲルさんの頭を乗せた。  カヲルさん、目を覚ましたら家まで送りますね。まあそのまま俺は送りオオカミになりますけどね。一回じゃまだまだ足りないので。いいですよね? 明日は土曜日だし。朝メシは俺が作りますよ。その後どこか出掛けてもいいけど、またベッドに潜って一日中過ごすのも良くないですか? セックスして、昼寝して、起きて、セックスして、またうたた寝して。カヲルさんの綺麗なあそこから何も出なくなるまでベッドから出したくないな。きっとまた洞木君の馬鹿と涙目で怒るでしょうね。すみません。何度でも怒られます。ちゃんと腰もマッサージしますし、お風呂も連れてきます。だから、許して下さいね?  俺はカヲルさんの首元へと身をかがめると、匂いが脳裏に焼き付くほど胸いっぱいに吸い込んだ。  ──え? なんでカヲルさんがこんなにエロくなっちゃったかって?  実はこの半年でいろいろあった訳で。  エロいカヲルさんとのラブラブえっちなシンガポールライフ、恋のライバル江坂教授の話や新たな刺客を蹴散らし俺達が新婚生活を送れるようになるまでの紆余曲折については、またいつか、別の話で。  END. 続編「この恋に触れると胸が痛くて」もお楽しみください。
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