第10話 地球人、異世界(仮)人、宇宙人。

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第10話 地球人、異世界(仮)人、宇宙人。

 それではダイジェスト。一年に渡る僕達ズッコケ三人組の珍道中に関しては本作品の主題から外れてしまうので省略する。気付けばおっかないほどの大風呂敷になってしまった感は否めないが、そのへんはさして重要ではないのだ。さっさと戦争編、クライマックスまで飛ばしてしまおう。  一八五三年、三浦半島の浦賀に黒船が来航したその翌年には、既に日本は洋式軍艦を完成させていたという話は有名である、たぶん。人間の往生際の悪さというのは底知れぬものがあり、事実、黒船ではないにしても、黒光りする超巨大宇宙戦艦が登場してからの異世界人の急進的な改革には鬼気迫るものがあった。  まず、技術革命を目指した異世界人は奴隷として使役していた一億人弱の地球人を然るべき研究機関に預け、【耳無し】の差別も撤廃して仕事を与えた。地球人としては大量虐殺を遂行した異世界人に憎悪する気持ちもあっただろうが、それでも一年後に仲良く異国の土に還るよりかは、共闘の方が救いがあると言える。  幸い、この星には鉄よりも硬度の高い鉱石が豊富にあった。地球人はホモ=ファーベルと定義された工作人としての能力を遺憾なく発揮し、一部の悲願であったを完成させた。名はアース。宇宙戦艦への対抗意識からなのか、全長八十メートルの巨体に二百人余りが搭乗するというでたらめっぷりで、色は漆黒。頭部はミスリル銀とオリハルコンの合金からなり、左手には二十メートルのレールガン、右手には一振りで目先五百メートルまで連鎖爆発を起こすというロングソード。もう色んな要素が飽和状態だというのにこのロボ、変形までしやがるらしいから変態である。地球人の英傑達は、おしなべてロボットオタクであった。  続けて異世界人。彼らは魔法開発に専念した。ありったけのマナを飛ばして弾丸にするのはもはや魔法ではない。彼らは三種類の魔法をした。破壊特化の赤魔法、防御特化の青魔法、バフ特化の緑魔法。……正直、何のことやらさっぱりである。有り体に言うと、魔法はものすごくカッコ良くなった。もちろん詠唱もアリ。その詠唱が厨二臭ければ臭いほど威力が倍増するという素敵仕様らしかった。  作中最強ことガラドさんはあっさりと解放された。戦争では竜王に跨り異世界軍の最前線で戦うのだという。竜王ロードと剣聖ガラド。異世界人ならば、幼少の頃に一度は妄想する夢のカードの実現、ということらしい。  ガラドさんは僕らの主張を受け、「お前たちは正しい」と肯定したうえで、こう告げた。 「俺の力は、あくまでもこの星をみじめったらしく守ることに使う。お前たちはお前たちの戦いをしろ」  事実、侵略者が宇宙の彼方に居る以上、戦争を未然に防ぐことは不可能だった。ライの頭に付いている二本のアンテナは、通信機能としての役割を一切持たないらしい。  僕らの狙いは戦争が始まってから、出来るだけ被害が出る前に何らかの手段で戦争を中止させることにある。ヘンドル星人との圧倒的な文化水準の差は、到底一年で埋められるものではない。負け戦は承知の上、一秒でも長く戦場に立ってみせる、と。ガラドさんが言ったのは、つまりはそういう自滅的な決意表明なのだ。遺言、と言ってもいい。 「やっぱり間違ってるよ、戦争なんて」  竜王の背に乗り、わずか三日で復興した王城へと飛び立つガラドさんを見送りながら、ヘンリが言った。 「…………父上ヲ、止メナケレバ」 「地球人と異世界人と宇宙人のコンビにしか、いや、僕達にしかできないことがきっとあるはずだ」  約束の一年は、異世界滅亡の一年は、すぐに訪れた。
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