第11話 吉野晴太、ヘンリ=ガルドロメア、カラ・ライ。

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第11話 吉野晴太、ヘンリ=ガルドロメア、カラ・ライ。

 約束の日、超巨大宇宙戦艦は王都ニネヴェの上空三千メートルに突如として出現した。迎撃するは超巨大ロボットアース、手の余った地球人が造った即席のF-22型戦闘機五百、竜王ロードと剣聖ガラド、飛空魔法を使った魔導士五千人。  ……もう色々混ぜすぎてカオスである。ありとあらゆる需要を満たす、ある意味最強のファンタジー世界とも言えるかもしれない。ドリームマッチとも。  しかし悪く言えば闇鍋状態だった。滅茶苦茶である。  荷電粒子砲。どこかの星に存在するぱやぱやーエネルギーなるものを活用してあの最強破壊熱線は誕生したのだと、ライが話していた。ゴング代わりとばかりに艦首にある砲塔がぱやぱやービームを放ったが、しかしそれはアースのレールガンによって相殺される。五千の魔導士は一斉に詠唱を開始、王都の上空に浮かび上がった(おびただ)しい数の魔法陣が緑の絨毯となり空を二分する。竜王は天に咆哮し、一年前のあの欠伸とはまるで比較にならない炎の息吹を宇宙戦艦に吹き込み、大火は魔導士の緑魔法によって何千倍にも増幅して業火となる。  が、無傷。地獄の業火に丸焼きにされたはずの宇宙戦艦は、その漆黒の体躯をそのままに、悠々と炎の中から現れた。しかし威嚇程度の効果はあったのか、宇宙戦艦は両舷から小型の戦闘機を続々と排出しはじめた。円盤型のフォルム、側面に窓らしき真円が六つ、頭部にチープなアンテナ。……いやだから、そんなにドUFOな形をしているUFOがあるか。まるで羽虫のように空を覆い尽くしたUFOに猛禽類のごときF-22が猛追する。  さて、すっかり実況要員と化した僕。一体どうやってこの空中戦を観戦しているかというと、地球人異世界(仮)人合同本部となったニネヴェ城の総司令部に潜入して、そこのモニターを盗み見て、である。差別が撤廃されたとはいえ、僕らが司令部に堂々と鎮座するための言い分があるはずもないので、やむなく潜入という次第だった。 「キサマタチハ強イナ。キット父上ハ戦艦ノ中デ怒リ狂ッテイルゾ。ダ」  僕の脳内実況の横で、ライが感心するように喋った。 「だといいけど」 「アトハボクノ仕事ダ」 「頼んだぞ、相棒」 「ウン、今度ノ演説ハ噛マナイヨウニスル」 「おう、ぱやぱや、だな」 「フフフ、ぱやぱやー!」  未だに意味が分からないそのふざけた挨拶を交わした相棒は、おもむろに地を蹴って、。  見た目といいその能力といい、つくづくギャグ漫画世界の住人である。ことなど、ヘンドル星の王子にとっては造作もない。青魔法で強化された総司令部の天井を突き破り、竜王の業火でも焼け跡一つ付かなかった宇宙戦艦の艦底に大穴を開けた相棒が、ヘンドル王の背後を取るまで十秒とかからなかった。  拡声器から彼の一年ぶりの演説が響く。 「我ガ同胞ニ告グ! 大王カラ・カライヲ人質ニトッタ! ヘンドル全軍、撤退セヨ!」  これが僕たちの作戦。超離れ業である。物理的に。奇を(てら)っているようで、むしろ一番現実的な戦略だった。戦争を止めるなんて威勢の良いことをほざいたのは僕なのだが、僕もヘンリも所詮民間人に過ぎないから、彼の腰巾着を務める以上のことは何一つ出来なかったのだ。  異世界(仮)陣営が攻撃の手を緩めないにしても、ヘンドル陣営が撤退すればひとまずは解決だというのがライの算段だった。  しかし、平和ボケした僕は、一つ致命的な勘違いをしていた。  上が止まれば下も止まるだなんて、人間はそんなに賢い生き物じゃなかった。  それが、異世界(仮)人の攻撃に対する過剰防衛だったのか、想定以上の抵抗への私怨だったのか、それとも単に勢い余ってのことだったのか。真意は分かりようもないが、しかし確かに、宇宙戦艦の荷電粒子砲は再び火を噴き、凶弾は竜王の片翼を貫いた。  堕ちる竜王、堕ちる剣聖。 「ガラドっ!」 「駄目だヘンリ!」  生まれて初めて彼女の努力を呪った。  飛空魔法。気弱な自分を変えたいと言っていた彼女が一年がかりで獲得した唯一の魔法である。ライが開けた天井から飛び出す彼女。戦場で警戒すべきは自軍から撃たれることだというのはよく言われることだが、そんな風刺的な話は抜きにしても、彼女の赤髪は良く目立っただろう。剣聖を脅かす伏兵にでも見えたのだろうか。  ――――五千の魔導士達は彼女にありったけのマナを浴びせかけた。  僕は、何も出来ないのか。彼女の傍にいることすら出来ないで、彼女が射抜かれる様を、地べたで見ていることしか出来ないのか。  ガラドさんは、彼女を僕に任せるって、そう言ったんじゃなかったのかよ。 「あなた、魔導士ですよね! 僕を彼女のところまで連れて行ってください!」 「あん、おいおい、ここはガキの遊び場じゃねえぜ」  騒然とする司令部の中で、ただ一人冷静だった獣人に声をかけた。無理だ。彼に戦場に飛び立つメリットなんて一つもない、僕は見ず知らずの地球人で、どころか司令部に侵入した民間人としてこの場で斬られてもおかしくない、……でも。 「お願いします! 僕があいつを守らなきゃダメなんだ!」  それが彼女を守れなかった理由になっていいはずがないだろう⁉ 「お前、あの子のこと、……いや、聞くまでもないか」 「え?」 「いいぜ、俺はこの星の味方じゃねえ、愛の味方だ。振り落とされんじゃねえぞ」  そんなカッコ良すぎる口上を言い切るや否や、彼は僕の右手を掴んで飛んだ。
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