第8話 「ワレワレハ宇宙人ダ」

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第8話 「ワレワレハ宇宙人ダ」

「M-3653星ニ告グ。ボク、…………ゴホンッ、ワレワレハ宇宙人ダ。ワレワレ、ヘンドル星人ハ半年前、E-5721星ノ住人ヲコチラニ転移サセ、E-5721星ヲ支配シタ。デモ、戦ワズシテ征服スルノ、スッゴイ罪悪感! ダカラコノ星デハチャント戦争スル! 此度ハ威力偵察ダ。一年後侵略ヲ開始スル。セイゼイ抵抗スルンダナ! ぱやぱやー!」  そんな意味不明な宣戦布告をして、超巨大宇宙戦艦は緑の眩い発光とともに消えた。ぱやぱやーという謎の捨て台詞だけが青空に反響している。  ――――これにて、この物語の全ての謎が明かされた。その緻密さはさておき、曲がり形にも張り巡らされていた伏線の数々は、全てたった一つの答えへと収束する。  宇宙人の謎技術オチ。  …………酷い! 夢オチくらい酷い!  E-5721星とは要するに地球であろう。宇宙人の謎技術によって地球人はM-3653星、もとい異世界にワープした。なんだこの脈絡のなさ、種明かしが一言で済んでしまう。  異世界だと思っていたこの星は、地球と地続きというわけではないにしても、少なくともではあったのだから、異世界とは言い難い。  言うなれば、異世界(仮)である。  まあ宇宙にはダイヤモンドでできた星もあるという話だし、超巨大宇宙戦艦を所有する星があれば、魔法やらドラゴンやらと生きる星もある、ということなのだろう。  僕はトラックに轢かれて死亡、その後異世界に転生した。  そう理解していたけれど。実際は、そこに因果関係なんてまるでなかったのだ。転移した直後に僕はぴんぴんして路地裏を駆けていたわけだから、実際にはトラックに轢かれてもいない。単に転移前の最後の記憶が法定速度を超えたトラックだっただけのことである。運悪くというか、まあ結果的に事故には遭っていないから運良くと言うべきか、トラックに轢かれる寸前に宇宙人による地球人転移が開始したということだ。  つまりは異世界に転生ではなく()。思いっきりタイトル詐欺だった。  …………さて、すっかりシリアスモードから抜け出してしまった。どうしたものか、とヘンリの方を見ると、彼女もまた呆然と僕を見ていた。宇宙一の肩透かしを食らったとでも言いたげな、それは腑抜けた顔をしている。 「酷い顔してるぜ」 「はあ⁉ 晴太君もだよ! こーんな顔!」  彼女は両手の人差し指で瞼を思いっきり吊り上げて、口をこれでもかとすぼめた。 「どんな顔だよ」 「うっさい!」  ……もう見栄えの良い笑い方も忘れてしまった。二人してぎこちない笑みを浮かべて、どうせなら全部笑い飛ばしてやろうと思って、ずっと二人で気持ち悪い高笑いをした。ガラドさんにも聞こえるくらい、大きな声で。 「あは、あはは、あはははは!」 「えへ、へへへ、うへっへへへ!」 「ギイイイイイヤヤアアアアア‼」  あれ、今変な声が混じったような……。 「タースーケーテー‼」  そんな断末魔と共に、。たぶん女の子だ。ツインテールだし。 「ウーケートーメーテーー‼」 「僕に言ってんの⁉ ちょ、え、まって!」 「晴太君!」 「何だ!」 「諦めよう!」 「いやだからっ、お前は諦めが良すぎ――――」  ――――ドシーン。そんな漫画的効果音を発生させて、それは僕と彼女の間に墜落し、深さ二メートルほどのクレーターを形成した。 「これ、僕が殺したことになるのかな」 「え、晴太君、殺人犯になっちゃったの?」 「……お前も共犯だからな。教唆犯だ」 「じゃああたしたち、ガラドの所に行けるんだね」 「笑いづらい冗談はやめろ!」  むうと不満そうに頬を膨らませる彼女。え、冗談じゃないんです?   とはいえ、人間が墜落しているという事実は眼前にあるわけで、このクレーターの中心には、それは(むご)たらしい少女の姿が……。 「チョット! ナンデ助ケテクレナカッタ! スゴイ痛カッタナ!」  「ぎゃああああ!」 「ユーレイ扱イスルナ! ボクハ死ンデナイ!」  気をつけの姿勢で僕らの目線まで垂直浮上してきた少女を、幽霊を見る目で見る。金髪碧眼、吊り目に吊り眉、怒髪衝天といった表情をしていて、少女というよりはむしろ少年らしい。でもツインテールなんだよな、と思ったら。  頭から飛び跳ねているそれは髪の毛ではなく、そこはかとないコスプレっ気を感じさせるチープなだった。宇宙から何かを受信してそうである。 「そ、そんな宇宙人全開の格好をしている宇宙人がいるかああ!」 「ナ! ボクノ角ヲバカニスルノカ⁉」 「しまった、つい反射的にツッコんでしまった!」  腐っても宇宙人だ。本気で怒らせてしまっては、謎のぱやぱやー光線で消し炭になってしまう! ……だから、さっきからぱやぱやーって何なのだろうか。 「……キサマ、良イ奴ダナ!」 「は? どうしてそうなる」 「角ヲ笑ッタ! ダカラ友達!」 「い、異文化交流がすぎる!」  一転して、今度は握手を求める宇宙人。僕は困惑しながらも右手を差し出した。 「ボクハ、ヘンドル星ノ王子、カラ・ライ! ぱやぱやー!」 「僕は吉野晴太……え、王子⁉」 「サッキノ宣戦布告ノ反省会ヲシテイタラ宇宙船カラ落ッコチタ! モウ一生帰レナイ!」  破顔一笑といった具合の王子。とりあえず僕は叫んだ。 「地球滅亡の戦犯はお前かああ‼」
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