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第1章 魔法使いと花火大会の夜
箒の下で花火が咲いている。
口笛のようなか細い音から、ドーン! という轟音。
花火はいい。空から見る花火はまた格別だ。めっちゃ近くで見れるし。
「真奈! 高度を上げなさい! 見つかるでしょ!」
「はぁーい」
頭上の空飛ぶ絨毯から叫ぶお母さんがうるさい。その声の方が見つかりそう。まあ大丈夫なんだけど。
ここは上空200メートル。私は箒にのってふわふわと漂っている。地上にはたくさんの人がいるけど、空には魔法使いしかいないから空いている。
今日は満月。でも、月には厚い雲がかかっていて空は暗く、花火大会には良い天候だ。
「透明魔法使ってるし、みんな花火の方見てるんだから気づかないよ、ねぇ?」
私は隣で飛ぶ香川君に言う。香川清道君。戦国武将みたいな名前で箒に乗ってるんだから笑っちゃう。
彼は器用なことに、手放しで花火大会のプログラムを見ていた。私ときたら、はりきって浴衣で来ちゃったから横座りで、両手を箒に添えてないと不安定だ。
「はは、まぁ言う通りにしとこうか。せっかくだからあっちの鉄塔のとこまで行かない?」
プログラムから顔を上げて言うのでドキッとする。アイドルみたいな顔で優しく笑わないでほしい。心臓に悪い。
「いいよ」
答えた声は少しうわずってしまった。緊張していること、バレたかな。
移動する間にも下で大輪の花が咲く。振動が箒に、そして体に伝わって心地よい。
「あんまり遠くに行かないのよー!」
無粋な母の言葉は無視する。
子供じゃないんだから、もう。
空飛ぶ絨毯には、香川君のご両親も乗ってるし余計なこと言わないで欲しい。
気になる男子と花火大会。親同伴なんて避けたいけど、香川君と来れたのはその親のおかげなので複雑ではある。
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