第1章 魔法使いと花火大会の夜

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 魔法使い同士は滅多に遭遇しない。  昔は西の方で魔女狩りとかあったし、日本でもインチキだペテンだと騒がれた過去がある。だから今魔法使いの存在を知るのは本人と心から信頼できる家族だけ。魔法を使う時は皆こっそりやってる。そんな感じだから使える魔法もどんどん少なくなっていると聞く。そもそも日本の魔法使いは人口すら少ないとか。  全部父親からの受け売りだけどね。  私は家族以外の魔法使いに会うのはこれで2度目。    昔、小学校4年生までは近所の(てる)君が魔法使い仲間だった。坊主頭でランニングに半ズボンが似合う子で、笑うと目が猫みたいに細くなって可愛かった。  基本中の基本、魔法を使っていることを隠す透明魔法がなってないくせに、箒で飛ぼうとするから親にしこたま怒られたっけ。  2人でいると気が大きくなって「実は私たち魔法使いなんだー!」なんて言って回ってたから親は噂の火消しに苦労してたし、「虚言癖がある子」って言われた。何を言われても怒られてもめげない照君とよく一緒に遊んだ。前向きで頼りがいがあった彼は親友だった。  いや、今にして思えば初恋だったのかな。  とにかく「照君がいれば大丈夫!」ってその時は思ってた。  その照君は、親の仕事の都合で海外に行ってしまった。しばらく寂しくて泣いて、親を困らせた覚えがある。  一人で飛んでも楽しくなかった。家族で空飛ぶ絨毯も悪くないけど、私にとって箒で飛ぶ仲間と遊ぶのは大切な時間だったんだと、照君がいなくなってから気づいた。  やがて私は飛ぶことが少なくなり、普通の子と同じようにアイドルやファッションに夢中になるようになった。  すっかり箒と縁遠くなっていたけど、高校受験でストレスがたまった時に父から勧められて気分転換に箒で飛んだらすごく気持ちよかった。ひとっ飛びして帰ってきた時の父の言葉は今でも忘れない。 「これから真奈は高校に行って、大学に行って、社会に出る。たくさんの人と出会えばまた一緒に飛ぶ魔法使い仲間も見つかるさ」 「本当?」 「運が良ければね」  それから心の半分は期待してなかったけど、半分は夢見ていた。  また空を仲間と飛ぶ日のことを。  だから、高校で同じ魔法使いに会えて、しかもそれがイケメンで優しい香川君!  テンションがめちゃくちゃ上がった。  今日の花火大会も指折り楽しみにして待っていたんだ。
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