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「で?」
チュンちゃんが私の顔を覗き込んできた。
「で? って?」
「高崎君とはどうなのよ。転入してからそろそろ1週間経つけど。毎朝一緒に登校してるってウワサも聞いてるよ」
「チュンちゃんてば地獄耳……」
毎朝生徒会は挨拶に立ってるけど、私は登校時間が少し遅くて、立ってるチュンちゃんとは会わない。ちなみに照君と一緒なのは朝だけで、放課後はチュンちゃんと帰ってる。たまに生徒会のお手伝いもしたりする。それはさておき。
ウワサに……なってるのかぁ。
それは、なんとなくキヨ君には知られたくないな、と思った。それに。
「ただ一緒に来てるだけだよ。照君が一方的にしゃべってるのを聞いてるだけだし」
こないだ、「これからもっと好きになるかも」なんて大胆なことを言ったのに、照君は普通に友達っぽく接してくる。
「初恋だったって言うから、びっくりしたけど」
私はお弁当の卵焼きを2つに切る。ひょいと持ち上げ、ぱくっと食べる。
「あれから別に何もないし。ちょっと拍子抜けって言うか」
さらにミニトマトをぱくっ。きゅうりを詰めたちくわもぱくっ。次々口に運ぶ。
「そうかぁー拍子抜けかぁ」
チュンちゃんはにやにやしている。
……ん?いやちょっと待って私。
今のまるで、なんかされるの待ってるみたいじゃない? ドキドキするようなことしてほしいって、そんな大胆な気持ちがあるとか、しかもぽろっと漏れちゃったとかそんなこと、ないよね?
「真奈、顔赤いよ?」
首をかしげるチュンちゃん。いつもキリッとしている目が優しげに細くなって。
私はますます赤くなる。
「チュンちゃん、からかわないでよ……」
「ふふふ。真奈は反応がかわいいなぁ!」
「もー」
なんだかこの間から周りにからかわれてばっかりな気がする。
「そ、そういうチュンちゃんは気になる人とかいないの?」
「お、反撃してきたね?」
「だって……私ばっかり……」
言った途端にフラッシュバック。いつもマネージャーと芸能人のように言葉を交わすキヨ君とチュンちゃんの光景。2人で会話するときはクールな感じだけど、まさか。
「……もしかしてチュンちゃん、キヨ君のこと好きだったりするの?」
「香川君?」
チュンちゃんは固まる。私はごくり、と唾を飲み込む。
「実は……」
「じ、実は?」
そしてたっぷりと間をとってから……ぷっ、と吹き出した。
「ないない! 安心して。王子は眼中にないから。あと高崎君は論外ね」
「高崎君」のところで虫でも払うような仕草をする。品行方正なチュンちゃんとは対極の存在だからか、照君への当たりが強い。
「そういえばチュンちゃんの恋バナってあんまり聞かないけど、好きなタイプとかってどういう……」
「うーん」
チュンちゃんの目は教室中をぐるりと見回し、誰にも視線を定めることなくお弁当に戻って、丁寧に巾着袋に包み始めた。
「またそのうち話すよ」
「……わかった」
チュンちゃんはたまにこうしてちょっと寂しそうな顔をする。清君が電波塔で一人でいたように、チュンちゃんにも一人で抱えてることがあるみたい。これ以上追及しないことにした。
いつか話してくれるといいなぁ。
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