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お弁当を食べ終わり、チュンちゃんは生徒会の資料に目を通す。ドラマで見るOL……というよりは敏腕営業社員、ううん、社長みたいな真剣な眼差し。私は手持ち無沙汰になり、午後の小テストの予習をすることにした。
中学は友達とワイワイやってたけど、高校のこの時間も嫌いじゃない。チュンちゃんは自分をしっかり持ってて、周りに流されなくて尊敬している。ふわふわしている私からすると眩しいくらいだ。
「ただいま~真奈!」
昼休み終わり5分前。照君が戻ってきた。
「お、おかえ…り?」
「自宅かよ」
資料から目を離さず、チュンちゃんが小声でツッコむ。真顔なのがおかしい。
照君はそのまま空いていた私の隣の椅子を持ってきて、逆向きに座った。背もたれに両腕をのせる。
「隣とその隣のクラスはドローン持ってるやついなかったけど、俺応援団に入ることになったわ」
「なんでよ!!」
思わずツッコむ。
「『お前元気あるな~! よかったらやらない?』って声かけられた」
応援団は9月の体育祭で応援合戦、演舞をやるということで前に団員を募っていた。それにしても。
「コミュニケーションおばけめ……」とチュンちゃんがつぶやく。
「他の教室入った時点で『影石センセーに捕まってた奴じゃね?』って言われた。俺けっこう有名人なのかな」
「そりゃ、あんだけやりあってれば注目浴びるでしょ」
「そっか!」
ははは! と陽気な笑い声が教室中に響く。ここにキヨ君がいたらどんな反応をしただろう。教室に姿はない。
「そんで週3くらいで朝練、昼練あるし、体育祭が近づいたらもっと増えるって。そんなわけでごめんな、真奈」
「なにが」
「寂しいだろうけど、しばらく朝は1人にさせるかも」
照君は大変申し訳なさそうに言う。クラスメイトが聞き耳を立ててる空気を感じて私は慌てる。
「いいよ! 全然いいよ! それより発言には気をつけてよ!」
今の発言は、だいぶ誤解を招いた、と思う。
まるで、恋人同士みたいな……。
「え? ホントのことだろ?」
自信満々でにやっと笑う照君。
「……っ!」
声にならない。
確かに、1人で静かに通学してた頃と今は全然違う。照君がいるといつもの通学路の彩度が違う気さえする。
でも、いい台詞も言うべき時と場所ってものがあると思う。
だってほら、今もちらほらと女子の視線が痛い。
ここで「寂しい」と言ったら調子に乗ってるみたいだし、「寂しくない」と言えば照君に嘘をつくことになる。うーん。
私の葛藤は意に介さず、照君は大きく伸びをした。やっぱり猫みたい。やたらでかいけど。ふっ、と息を吐く。
「ドローンは……しょーがねーからキヨに聞くかぁ。あんまり頼りたくないんだけど、な」
そして――照君は「な」の部分で私の頬を軽く人差し指でつついた。
「な、ななななにすんの!!」
私の反応を嬉しそうに見て、
「ん? 真奈から元気もらおうと思って。ほっぺたやわらかいなー真奈は」
さらにつんつんする。
「やめてよぉ」
そこに、賑やかな笑い声と共に数人の男子と一緒にキヨ君が戻ってきた。校庭でサッカーして遊んでいたらしい。汗が光っている。
拭いてあげたいな、なんて思う。
「キヨ君、汗が……」
「あ、ありがと真奈ちゃん」
キヨ君がタオルを持つ私の腕をとる。
「優しいね。でも誰にでもこんなことするの?」
「えっ、そんな、キヨ君だけだよ……」
そして見つめ合う二人……。
「キヨミチー!」
私の妄想をぶち壊す大声で、照君はキヨ君に絡みにいった。腕で汗をぬぐったキヨ君はほんの一瞬嫌そうな顔をした後、いつもの王子顔に戻り、「なんだよ」と二人で話し始める。
ぷにぷにぷに。
「チュンちゃん……」
「お、ホントだやわらかい。元気出そう」
チュンちゃんがドキドキが収まらない私のほっぺたをつんつんしていた。
「高崎君の、誰とでも仲良くなれるコミュニケーション能力だけはすごいわね……あ、五限始まるわ」と最後にぷに、と一押ししてチュンちゃんは席に戻る。
その様子を見ていたかのように、タイミングよくチャイムが鳴った。
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