28.初めての夜

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*** 「あんな、お前を不安にさせたくなくて黙ってたんだけど――」  不意に(そう)が声の調子を変えたから、結葉(ゆいは)が怯えたようにキュッと身体を縮こまらせたのが分かった。  実際、こんな風に声音を変えて話し始めるつもりじゃなかった(そう)だ。  自分の緊張が声に乗ってしまったことを今ほど後悔したことはない。  明らかに萎縮してしまった結葉(ゆいは)を見て、申し訳ない気持ちになって。  小さく深呼吸をすると、今度は極力穏やかに聞こえるように言葉を紡いだ。 「実は今日の昼間にな、お前の旦那から電話があったんだ」  だけど伝えた言葉が声音を凌駕(りょうが)するのに十分すぎるほど衝撃的な内容だったからだろう。  (そう)の言葉に、結葉(ゆいは)がヒュッと息を吸い込んで顔面蒼白になって。  それでも小さな声で 「偉央(いお)……さん、から……」  と絞り出すように(そう)の言葉を復唱した。  きっと、その後に「何て?」と続けたいんだろうに、それすらハッキリと声に出せないくらい結葉(ゆいは)が動揺しているのを感じた(そう)だ。  今更だろ?と思いながらも、(そう)は小刻みに震える結葉(ゆいは)の小さな手をギュッと握らずにはいられなかった。 「大丈夫だ、結葉(ゆいは)。お前の旦那な、お前を連れ戻す気はないらしい」  結葉(ゆいは)の背中をゆるゆると撫でながらそう言ったら、結葉(ゆいは)が息を呑んだのが分かった。
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