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「あんな、お前を不安にさせたくなくて黙ってたんだけど――」
不意に想が声の調子を変えたから、結葉が怯えたようにキュッと身体を縮こまらせたのが分かった。
実際、こんな風に声音を変えて話し始めるつもりじゃなかった想だ。
自分の緊張が声に乗ってしまったことを今ほど後悔したことはない。
明らかに萎縮してしまった結葉を見て、申し訳ない気持ちになって。
小さく深呼吸をすると、今度は極力穏やかに聞こえるように言葉を紡いだ。
「実は今日の昼間にな、お前の旦那から電話があったんだ」
だけど伝えた言葉が声音を凌駕するのに十分すぎるほど衝撃的な内容だったからだろう。
想の言葉に、結葉がヒュッと息を吸い込んで顔面蒼白になって。
それでも小さな声で
「偉央……さん、から……」
と絞り出すように想の言葉を復唱した。
きっと、その後に「何て?」と続けたいんだろうに、それすらハッキリと声に出せないくらい結葉が動揺しているのを感じた想だ。
今更だろ?と思いながらも、想は小刻みに震える結葉の小さな手をギュッと握らずにはいられなかった。
「大丈夫だ、結葉。お前の旦那な、お前を連れ戻す気はないらしい」
結葉の背中をゆるゆると撫でながらそう言ったら、結葉が息を呑んだのが分かった。
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