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開けっぱなしのカーテンから淡い月光が部屋の中に差し込んでいる。
満月が近いのか、それは結構な明るさだった。
月明かりとは別に、部屋のあちこちでテレビの主電源を表す赤いランプや、DVDデッキの時計表示、ウォーターサーバーが稼働していることを示す電源ランプなどなど、様々な家電の待機ランプが仄かな明かりを周囲にもたらしていて、照明を付けていなくても案外部屋にある物の造形などが薄らと見えていた。
キッチンカウンター前のスツールに腰掛けた偉央の手元、結葉を繋いでいた足枷と鎖が無機質な光を放っている。
「……結葉」
返事などないと分かっていてもつい愛しい妻の名を呼んでしまう偉央だ。
ギュッと足枷を握り締めると、それじゃなくてもエアコンの効いていない室内で冷え切った偉央の体温を、鉄の輪っかが更に奪ってしまう。
偉央は、そこから全ての熱が流出してしまうような錯覚を覚えた。
それならそれでいい、と思ってしまうのは自暴自棄になっているんだろうか。
「……きっとこれで良かったんだよね?」
誰にともなくつぶやいた偉央の低音ボイスが、仄白い月光に滲むように溶ける。
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