28.初めての夜

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 今すぐ草の根をかき分けてでも結葉(ゆいは)を探し出して連れ戻さねば、と思う一方で、このまま逃げ切って欲しいとも(こいねが)ってしまう。  相反する二つの思いで、偉央(いお)の心はぐちゃぐちゃに乱れていた。  足枷(あしかせ)をはめてしまったことで、結葉(ゆいは)は両足首に大きな傷を負ってしまった。  それが、普通にしていればそこまで付くことはない傷だと言うのは、獣医師とは言え医学を学んだ偉央(いお)には分かっていて。  それなのに結葉(ゆいは)を問い詰めることをしなかったのは、自分を傷付けてでも、彼女が偉央(いお)の元を離れたいと願っているのだと、薄々勘付いていたから。  だからこそ、今日、偉央(いお)は敢えて足枷を外して結葉(ゆいは)が逃げられる〝隙〟を作ったのだ。  結葉(ゆいは)を自由にしてやりたいと思う自分と、彼女を手放したくないと執着する自分との攻防の中で、足枷を外しておきながらも、服を取り上げるという暴挙に出た偉央(いお)だ。  それで諦めて結葉(ゆいは)が大人しくしていたなら、そのまま彼女を一生閉じ込めて飼い殺しにしてしまおう。
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