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「行ってきます」
玄関先。
想が名残惜しそうに結葉を見つめて。
結葉は「行ってらっしゃい、想ちゃん!」となるべく明るく感じられるように笑顔を浮かべてハキハキと見送った。
玄関扉を開けて一歩外へ出た想が、そこで後ろ髪を引かれたみたいに立ち止まって「あ、あんな結葉」と振り返る。
結葉は「ん?」と小首を傾げて想を見つめた。
「もしっ、もしも何かあったら遠慮なく俺に電話――」
物凄く不安そうな顔で自分を見つめてくる想に、結葉は一歩踏み出すと、彼の唇を人差し指でそっと押さえた。
「想ちゃん、私、大丈夫だから。そんなに心配しないで?」
言って、「偉央さんはもう私を連れ戻す気はないんでしょう?」と想の顔を見上げる。
想は「……ああ」とつぶやいて結葉をじっと見下ろすと、「本当に大丈夫なんだな?」と念押しをした。
結葉はニコッと微笑むと、
「雪日もいるし大丈夫よ」
言ってから、「でも……」とソワソワする。
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