29.公宣からの提案

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*** 「行ってきます」  玄関先。  (そう)名残惜(なごりお)しそうに結葉(ゆいは)を見つめて。  結葉(ゆいは)は「行ってらっしゃい、(そう)ちゃん!」となるべく明るく感じられるように笑顔を浮かべてハキハキと見送った。  玄関扉を開けて一歩外へ出た(そう)が、そこで後ろ髪を引かれたみたいに立ち止まって「あ、あんな結葉(ゆいは)」と振り返る。  結葉(ゆいは)は「ん?」と小首を傾げて(そう)を見つめた。 「もしっ、もしも何かあったら遠慮なく俺に電話――」  物凄く不安そうな顔で自分を見つめてくる(そう)に、結葉(ゆいは)は一歩踏み出すと、彼の唇を人差し指でそっと押さえた。 「(そう)ちゃん、私、大丈夫だから。そんなに心配しないで?」  言って、「偉央(いお)さんはもう私を連れ戻す気はないんでしょう?」と(そう)の顔を見上げる。  (そう)は「……ああ」とつぶやいて結葉(ゆいは)をじっと見下ろすと、「本当に大丈夫なんだな?」と念押しをした。  結葉(ゆいは)はニコッと微笑むと、 「雪日(ゆきはる)もいるし大丈夫よ」  言ってから、「でも……」とソワソワする。
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