29.公宣からの提案

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「もしもし?」  初めての着信にドキドキしながら出ると、「結葉(ゆいは)、いま大丈夫?」と(そう)の声。 (えっ、嘘っ。もうお昼⁉︎)  そんなに時間が経っているような気はしなかったけれど、家事に夢中になっている間に時間泥棒に遭ったのだろうか。  そんなことを思って壁の時計を見たら、十一時前。ランチタイムと呼ぶには、まだいささか早い時刻だった。 「ごめんな、変な時間に」  家にいる自分に駄目な時間も変な時間もありはしないのに、(ホント、(そう)ちゃんはどこまでも優しいなぁ)と思った結葉(ゆいは)だ。 「全然問題ないよ? どうしたの?」  自由人な自分はともかくとして、(そう)はいま、仕事中のはずだ。  それを不思議に思いながら問いかけたら、 「親父がさ、結葉(ゆいは)連れて会社に来いって言うんだけど……。いまから迎えに行っても平気?」  言ってから「あっ、けど。もしそこじゃ不安だってんなら別のところで落ち合うんでもいい」と慌てたように言い募る。  (そう)はきっと、山波(やまなみ)建設と結葉(ゆいは)の実家が隣り合わせなことを気にしてくれているんだろう。
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