29.公宣からの提案

18/29
前へ
/848ページ
次へ
(そう)ちゃん。私、(そう)ちゃんのこと信じてるから……だから平気だよ?」  ギュッとスマートフォンを握りしめて。  電話の向こうに自分の顔が見えるわけでもないのに真っ直ぐ前を向いて凛とした声音で言ったら、(そう)に「え?」とつぶやかれた。 「ほら。偉央(いお)さんは私を連れ戻そうとしてないって言った(そう)ちゃんの言葉。あれ信じてるから実家のそばでも問題ない」  補足するように付け足したら、「ああ」って(そう)が得心が言った様子で吐息を落として。  結葉(ゆいは)はそんな(そう)に、小さく深呼吸をしてもうひとつ付け加えた。 「――えっと……それだけじゃなくてね。もしも……もしも予想に反して何かがあったとしても……(そう)ちゃん、全力で私を守ってくれるって言ったから。私ね、その言葉も信じてるの。だから……おじさんが会社で待つって言うなら、私、そこに行くんで全然構わない」  結葉(ゆいは)が、少しつっかえながらも迷いのない声音でそう言ったら、(そう)が電話口で息を呑んだのが分かった。 「結葉(ゆいは)。俺、お前の信用、絶対裏切らねぇって誓う! すぐ迎えに行くから出れるように支度して待ってて?」  ややして結葉(ゆいは)に投げ掛けられた(そう)の声音が、どこか自信に満ち溢れた男らしいものになっていた気がしたのは、きっと結葉(ゆいは)の気のせいではないだろう。
/848ページ

最初のコメントを投稿しよう!

738人が本棚に入れています
本棚に追加