32.偉央の泣き言と結葉の内緒ごと

2/22
前へ
/848ページ
次へ
 最初は離婚届と小切手だけを入れて山波(やまなみ)(そう)宛に送るつもりだった偉央(いお)だ。  だけど結局、未練がましく結葉(ゆいは)宛の手紙まで添えてしまった。 「結葉(ゆいは)……」  結葉(ゆいは)がマンションを出て行ってからずっと、偉央(いお)は家で眠れなくなってしまった。  あれから何度か自宅に着替えを取りに行ったりしたけれど、本当にそれだけ。  マンションの玄関扉を開けた時、 「お帰りなさい、偉央(いお)さん」  そう言って、微笑んでくれる結葉(ゆいは)が家にいないことが、こんなにも堪えるとは思わなかった偉央(いお)だ。  足枷(あしかせ)で無理矢理家に繋いでいた時でさえ、結葉(ゆいは)偉央(いお)が戻れば今にも消えてしまいそうなギリギリの淡い笑顔を一生懸命……それでも震える声で「お帰りなさい、偉央(いお)さん。お仕事お疲れ様でした」と(ねぎら)ってくれた。
/848ページ

最初のコメントを投稿しよう!

734人が本棚に入れています
本棚に追加