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最初は離婚届と小切手だけを入れて山波想宛に送るつもりだった偉央だ。
だけど結局、未練がましく結葉宛の手紙まで添えてしまった。
「結葉……」
結葉がマンションを出て行ってからずっと、偉央は家で眠れなくなってしまった。
あれから何度か自宅に着替えを取りに行ったりしたけれど、本当にそれだけ。
マンションの玄関扉を開けた時、
「お帰りなさい、偉央さん」
そう言って、ぎこちなく微笑んでくれる結葉が家にいないことが、こんなにも堪えるとは思わなかった偉央だ。
足枷で無理矢理家に繋いでいた時でさえ、結葉は偉央が戻れば今にも消えてしまいそうなギリギリの淡い笑顔を一生懸命作って……それでも震える声で「お帰りなさい、偉央さん。お仕事お疲れ様でした」と労ってくれた。
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