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別れる前にもう一度だけ。
彼女の手作り料理を味わいたいなと思ってしまった偉央だ。
そんなことを考えていたからだろうか。
まるで泣き言みたいに結葉へ手紙を書いてしまっていたのは。
最初は書くだけで満足しようと思ったそれを、気が付けば離婚届などと一緒に送付してしまっていて。
(結葉はあの手紙を読んだだろうか)
「読まれたい」という気持ちと、「あんな恥ずかしいもの、読まずに捨てて欲しい」という気持ちが、偉央の中でグルグルと無限ループを繰り返している。
そこへ、「結葉なら捨てずに読んでくれるはず」という願望と、「逃げるほど嫌われたんだから希望を抱くだけ野暮だろ?」という諦観までもが入り乱れて錯綜するから、眠らねばならないのに目が冴えるばかり。
ブラインド越し。
外から建物の外観を――と言うより壁面に描かれた文字を――照らすように灯しているライトの灯りが待合室を仄明るく照らしていて。
真っ暗ではないから余計に眠れないのだろうかと、偉央は小さく吐息を落とした。
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