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「結葉……」
(捕まえたりしないから、どうかもう一度だけ)
(あの控えめな優しい声音で、「偉央さん」と名前を呼んで、僕に触れてくれないだろうか)
***
「想ちゃん。私、今日はちょっとだけ街へお買い物に出てみようかなって思ってるの」
朝。
いつものように想にお弁当を手渡しながら結葉が言って。
想は思わず「……平気なのかっ?」と差し出された弁当の包みごと結葉の手を握ってしまっていた。
そのことにハッと気づいて慌てて想が手を離したら、結葉も驚いたように手を引いて。
――ゴトッ!
鈍い音を立てて二人のちょうどド真ん中。支えを失った弁当が垂直落下した。
「お弁当っ」
「俺のっ」
二人同じように言って、慌てて手を伸ばしてかがみ込んだら、額同士をゴチンッとぶつけてしまう。
結果、今度こそ二人同時に「痛っ!」「痛っ!」と声が出た想と結葉だ。
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