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そのハプニングのおかげで、結局出かけることに対して、それ以上は追求されなかったことにホッと胸を撫で下ろした結葉だ。
実は先日純子から、「ゆいちゃん、家事手伝い、本当によくやってくれてるから。ちょこっとだけど」と言って、ほんの少しお金を渡された。
結葉は「住まわせて頂いているご恩もあるので」と固辞しようとしたのだけれど。「もらってくれないなら、金輪際ゆいちゃんにはお手伝い、頼まないんだからっ」と口を尖らされて、仕方なく受け取った感じだ。
このお金。本当は一円たりとも手をつけるべきではないと思っていたのだけれど、一つだけどうしても〝やりたいこと〟が出来てしまった結葉だ。
想に言えば、そのための微々たるお金くらい、すぐに用立ててくれることは分かっていたけれど、これだけは彼に頼りたくないとも思ってしまって。
(ごめんなさい、純子さん。働き始めたらちゃんと戻しておきます)
そう心の中で折り合いを付けて、結葉は純子から受け取ったお金を、手渡された時の封筒のままカバンに仕舞った。
(私、お財布も持ってないんだ……)
そう思いながら。
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