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偉央からの書類を想から手渡されたあの夜。
結局結葉は、自分宛の手紙だけ、どうしても開封することが出来なかった。
(何が……書いてあるの?)
そう思ったら、怖くて封を切れなくて。
想が、あの手紙だけ「結葉宛だから」と未開封のままにしてくれていたことも仇になってしまっていた。
その手紙を、昨夜結葉は、意を決してやっと開封して中身を取り出してみたのだけれど――。
薄い色合いの灰色で罫線だけが引かれた、飾り気のないA4サイズの便箋に、たった二行。
――ごめんね、結葉。
――許されるなら、もう一度だけ、君の手料理が食べたかった。
それは、手紙と呼ぶには余りにも短い文章だった。
偉央は、その端正な見た目に似合った、美しい文字を書く男だ。
そうして、文字の大きさはどちらかというと控えめで、筆圧もそんなに高くない。
そんななので、広い紙面の中、その二文はとても儚げに見えて。
薄手の紙面のところどころが丸く波打っているのに気付いた結葉は、思わずそこを指先でなぞった。
そのことに重きを置いてもう一度よく見てみたら、書かれた文字の最後の句点「。」の端っこが、ほんの少し滲んでぼやけていて。
「涙……?」
そうとしか思えなかった。
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