32.偉央の泣き言と結葉の内緒ごと

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(そう)ちゃんは、私のためにすごくよくしてくれているから……イヤな思いをさせたくない)  正直、結葉(ゆいは)は昔みたいに(そう)に惹かれ始めていて……(そう)と家族みたいに暮らせている今の生活を、とてもとても大切に思っている。  それを壊しかねないこの愚行は、秘密裏に処理しないといけないと考えた。 (すっごく怖いけど……きっと大丈夫……だよ、ね?)  行く前に匿名で『みしょう動物病院』に電話して……受付に偉央さん(院長先生)が勤務中かどうかを確認して。  「いる」って言われたら「分かりました」って答えて電話を切ってから、マンションにこっそり入って冷蔵庫の中に料理だけ仕舞って……コンシェルジュのお二方にその旨をお伝えする、というのはどうだろう。  あの日、逃げるようにあの場を後にしてしまったから、散々お世話になったコンシェルジュのふたり――斉藤と白木(しらき)――に、ちゃんと礼を言えていなかったのもずっと引っかかっていた結葉(ゆいは)だ。  あの時借りた制服も、結局(そう)に返しに行ってもらってしまったから。 (行ったら、それも含めてお礼を言おう。おかげさまで、元気に暮らしていますって伝えよう)  そんな風に思って。  結葉(ゆいは)は、(そう)に内緒で偉央(いお)の部屋に侵入するという恐怖を、コンシェルジュの二人に礼を言うという大義名分でコーティングした。
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