32.偉央の泣き言と結葉の内緒ごと

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 材料をインして炊飯スイッチを押すだけで、手軽においしいスープが作れるので、忙しい朝には結構重宝したのを覚えている。 「わぁー、何か今日の朝ごはん、カフェみたいでかっこいい!」  (せり)が言ったら「たまにはパンもいいでしょ〜?」と純子が微笑んだ。  そう。基本的には朝はお米が食卓に登ることの多い山波家(やまなみけ)だ。  現に結葉(ゆいは)がここに来て半月以上経ったけれど、朝食にパンが出て来たのを見たのは初めての経験だった。  前にアパートで(そう)と一晩明かした朝、材料がなくてパンを朝食にしたことがあったけれど、あのとき(そう)ちゃん、本当はご飯が食べたかったんじゃないのかな?とふと思ってしまった結葉(ゆいは)だ。  それで、見るとはなしにチラチラと(そう)(うかが)い見てしまって、「ん? どした?」と(そう)に小首をかしげられてしまった。 「あっ、――なっ、何でもないっ」  実際、過ぎてしまった日のことを言われても今更だよね、と思いながらソワソワとそう答えた結葉(ゆいは)だったけれど、(そう)には煮え切らない結葉(ゆいは)の態度がやたらと引っかかってしまって。  実質的には(そう)に対して別のこと――偉央(いお)への差し入れ――を隠していた結葉(ゆいは)だったけれど、この時(そう)に違和感を抱かせたことが、結果的には結葉(ゆいは)を救うことになるのは、もう少しあとの話になる――。
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