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マンション近くの最寄りのバス停で降りると、『みしょう動物病院』の本当にすぐそばになってしまう。
さすがにそれは怖い、とひとつ手前のバス停で下車した結葉だ。
それにしたって、真っ直ぐ一直線で偉央の動物病院が見渡せる場所にあるバス停なので、結葉は一旦すぐそばの路地に身を潜めてから、ホッと安堵の溜め息を落とす。
コートのポケットに入れていた携帯電話を取り出して、アドレス帳から『みしょう動物病院』の番号を呼び出すと、何度も深呼吸をしてから、震える手で発信ボタンをタップする。
コール二回で『はい、みしょう動物病院、受付の加屋でございます』という声が聞こえてきて。
結葉は緊張で、思わず一瞬息を止めてしまっていた。
『――もしもし?』
すぐに言葉を発することが出来なかった結葉に、電話の向こうで怪訝そうな声音が聞こえてきて。
結葉は慌てて「あ、あのっ――」と言葉を紡いだ。
「私、ハムスターを連れて行きたいんですけど……そちらの院長先生が小動物を得意分野にしておられると知人から教わりまして。……その、い、今から連れて行っても診て頂けますでしょうか?」
バスの中で、何度も何度もシミュレーションをした言葉だ。
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