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本来ならばすぐにでも受付に駆け寄って、先日のお礼を伝えたいところだけれど、今はとにかく偉央がいない間に手荷物を部屋に置いて来てしまいたい一心だった結葉だ。
上の階へ上がるため、呼び出しボタンを押すと、たまたま一階に箱があったらしく、すぐに扉が開いて――。
個室に乗り込んで、「閉」ボタンを押したら、ドアが閉まり切る寸前、受付の方から走ってきた斉藤に「あのっ……!」と声を掛けられた。
けれど、結葉が「えっ」とその声に目を向けたときには、扉が閉まり切ってエレベーターは上昇を開始してしまって。
結葉は心の中で〝本当にごめんなさいっ。後でちゃんと伺います!〟と言い訳をすると、手にした紙袋をギュッと握りしめた。
たくさん詰めすぎたからだろうか。
ふと見ると、持ち手の付け根のところが、破れて来ていて、結葉は落っことしたら大変、と紙袋を両手で抱き抱え直す。
そのせいで前が見えにくくなってしまったけれど、エレベーターの扉が開いたら、部屋までは一直線の通路だ。
約三年間住んでいた場所ではあるし、きっと視覚の不便さを〝慣れ〟がカバーしてくれるよね?と、結葉は不安な気持ちを払拭するみたいに一生懸命自分に言い聞かせた。
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