734人が本棚に入れています
本棚に追加
/848ページ
物伝いに歩けるところはそうしながら進んで、道路を渡るときだけは何も寄りかかれるところがなかったので足がもつれそうになるのを必死で堪えながら何とか歩いて――。
幸い早朝で車が全く走って居なかったから横断出来たけれど、昼間だったら立ち往生……もしくは渡る前に歩道にうずくまって居たかも知れない。
よろけるようにマンションエントランスのドアを開けて中に入ると、物凄い酩酊感に襲われて思わずその場に膝を折ってしまった。
「大丈夫ですか?」
偉央の異変に気付いた男性コンシェルジュが駆け寄ってきて、偉央を立たせてくれる。
夜間は男性コンシェルジュに代わっているのは知って居たけれど、それが有難く思えてしまった偉央だ。
やはり、結葉の逃亡劇を知るあの女性二人に会うのは、弱り切った今だけは避けたいと思ってしまったから。
「……申し訳ない」
人の手を取ってしまったことに謝ると、「お気になさらず。それよりも一人で歩けますか?」と問われて。
本当ならば、一人で歩くことなんて到底出来そうにないのだけれど。
こんな時でさえも、プライドが邪魔をして人に頼ることを潔しと思えない偉央は、なけなしの気力を振り絞って「大丈夫です」と答えてしまって。
グッと両足に力を入れてふらつく身体を鼓舞すると、エレベーターホールを目指した。
最初のコメントを投稿しよう!