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それにドキッとさせられてしまった結葉だ。
(大丈夫、いつも通り……。いつも通り)
別に偉央が中にいて、電気をつけたわけではない。
そう自分に言い聞かせてそっと内側に入ると、ふと昔の記憶を思い出して無意識、密室になるのを避けるみたいに玄関扉の下部に、手近にあった靴べらを挟んでオートロックが掛からないようにした。
いつもなら理路整然とした状態のはずの玄関の土間に、結葉の靴と偉央の靴が数足ずつ散らばっていて、偉央の精神状態の乱れを感じて切なくなる。
結葉が一緒に暮らしていた頃は、玄関先には一足の靴も出ていなくて、履くものをすぐ横のシューズクロークから取り出しては履いていた。
なのに――。
帰りにここに散らばっている靴と、シューズクロークに仕舞われたままの靴を数足持ち帰ったらいいかも。
今、結葉は逃げるときに履いていたスニーカー一足で生活している。
想は靴も買おうと言ってくれたけれど、差し当たって困るわけではないから、と買わずにいたのだ。
(これ、持って帰ったら買わずに済むよね)
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