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朝、想が暖かくして行けと言ってくれたから着てきたのだけれど。
濡らしてしまうのは忍びなくて、いそいそと脱いでカウンター横のスツールに掛けると、容器を丁寧に手洗いして、流し横の網棚に伏せる。
「よしっ」
そこまでしてから結葉はタオルで手を拭いて惣菜入りのタッパーに向き直った。
何も入っていない冷蔵庫の中は、難なく持ってきた六つの容器が収納出来そうでホッとする。
冷蔵庫の扉を開けて中に一個ずつタッパーを収めていきながら、なるべく全部がパッと見渡せるように全てを手前に来るよう配置し直して。
「うーん」
でも、ラップやアルミホイルなどで仕切りを作った結果、半透明な容器の中はぱっと見、何が入っているのか分からなくて悩ましかった。
(中身が分かるように見出しシール、つけとけばよかった)
そんなことを思いながらゴソゴソしていたら、背後でガタッと音がして、「……結葉?」と声を掛けられて。
予期せぬ呼び掛けに、結葉はビクッと肩を跳ねさせる。
この家の中で自分の名前を呼ばわる人物なんて一人しかいない。
それに、このゾクリとくるような低音ボイスは偉央以外の何者でもないのは分かりきっていた。
だけど。
それが信じたくなくて、結葉はなかなか振り返ることが出来なかった――。
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