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「い、お、さん……」
ゆっくり振り返ってみると、やはりそこに居たのは偉央で。
結葉はオロオロと視線を彷徨わせる。
「もしかして……帰ってきて……くれた、の?」
ポツリポツリと、まるで答えを聞くのを怖がっているみたいに問いかけられて。
それが分かっていてもどうしようもないから懸命にフルフルと首を横に振ったら、偉央がとても悲しそうな顔で結葉を見詰め返してきた。
覇気が全く感じられない偉央の様子に、一瞬ほだされそうになった結葉だ。
でも、ここで選択肢を間違えたらまた元の木阿弥になってしまう。
偉央には見えない所でグッと拳を握って自分を鼓舞すると、結葉は小さく吐息をついて、寝室前に立つ夫をじっと見つめた。
「偉央さん、お手紙くれたでしょ? 『もう一度私の手料理が食べたい』って……。だから……」
流しの縁を掴んだ手に、知らず知らず力がこもってしまう。
結葉は指先が白くなるぐらいギュッとそこを握ってしまっていたことに気が付いて慌てて手を離すと、恐る恐る偉央の反応を窺った。
今は距離もさることながら、システムキッチンが間にあるから、おいそれと偉央に触れられる心配はないはずだ。
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