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「辛くないですか?」
結葉の一挙手一投足から目を離したくないみたいにじっと自分の動きを目で追ってくる偉央に、何だか居心地の悪い結葉だ。
それを払い除けるみたいに問いかけたら、「大丈夫だよ、有難う」と穏やかに微笑み掛けられて。
今日の偉央は付き合っていた頃を彷彿とさせられる柔らかな表情をよく向けてくる。
そのたびに、結葉は胸の奥がざわついてしまう。
ともすると偉央のその雰囲気にほだされてしまいそうな気持ちになるけれど、結葉はその柔和さの奥に秘められた、偉央の激情を知っているから。
だからギュッと拳を握り締めると気持ちを切り替えた。
「あの、熱いので気を付けて食べてくださいね」
そこまで言って、お茶を忘れていたことに気が付いた結葉は、「お茶、用意してきます」と踵を返す。
「結葉っ、待って」
途端、不安そうに偉央が呼び止めてきて、出し掛けた足を引き止められてしまう。
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