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「大丈夫です。お茶を淹れてくるだけです」
捨て犬みたいな目でじっと見つめてくる偉央に、自分がこの家を逃げ出した後、偉央がどれだけ寂しい思いをしたかを垣間見た気がして、胸の奥がズキッと痛んだ結葉だ。
「私も偉央さんのそばで一緒にお茶、飲みますから」
――それなら不安じゃないですよね?と言外に含ませたら、偉央が小さく頷いた。
いまの偉央には、何だか放っておけないオーラがある。
だけど、彼が自分にしたことを思い出すと、結葉はそれでもやっぱりこのままずっとここに居ることは出来ないと思って。
でも、だったらせめて――。
偉央がご飯を食べて眠りにつくまでの束の間の時間だけは……出来る限りのことをしてあげようと……そんなことを考えてしまった。
自分はつくづく色んなことに流されやすい性格だと……結葉は心の中で小さく嘆息する。
そうして、そんな自分の優柔不断さが想に物凄く心配を掛けてしまうことになるだなんて、その時の結葉は思いもしなかったのだ。
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