735人が本棚に入れています
本棚に追加
/848ページ
「もしもし」
応答ボタンをタップして耳に当てると、
『山波想さんでいらっしゃいますか?』
電話の主は若い女性だった。
〝山波建設さんですか?〟や、〝山波さんですか?〟と聞かれることは多いが、個人的なことででもあるかのように想のことをフルネームで名指しにしてくる電話は珍しい。
もちろん携帯電話なので、主には仕事で使っていても、プライベートな電話が全く掛かってこないわけではない。
そもそも想は面倒臭くてスマホを二台持ちするようなタイプではなかったから、尚のことだ。
ただ、まぁ普通に考えて、友人や知人や家族なら当然こちらも番号を登録しているわけで――。
「はい」
と答える声が気持ち低音になったのは致し方ないだろう。
それが怖かったのだろうか。
相手は一瞬押し黙ると、それでも気を取り直したように言葉を続けてきた。
『私、御庄結葉さんが住んでおられたタワーマンションのコンシェルジュをしております斉藤と申します』
言われて、「ああ」と合点がいった想だ。
最初のコメントを投稿しよう!