34.出て来ない結葉

6/28

735人が本棚に入れています
本棚に追加
/848ページ
 前に結葉(ゆいは)に頼まれてクリーニング済みの制服を返しに行った際、あれでも一応と思い、「何かありましたらご連絡頂けますか?」と自分の携帯番号を伝えていたことを思い出した。  ああは言ったけれど、結葉(ゆいは)が自分のところで生活している以上、何もありはしないだろうと、あちらの番号は敢えて登録していなかった(そう)だ。  もし必要に駆られたとしても、調べれば出てくるのは分かっていたし、最悪出向けば済むこと。  こちらからどうこうすることはないと思っていた。  なのに――。 『あの、今朝結葉(ゆいは)さんが十時前に一人でこちらにいらっしゃいまして……。お部屋に戻られたっきり出ていらっしゃらないので……その、心配になってご連絡を差し上げました』  言われた言葉の意味が分からなくて、(そう)は思わず「え?」とつぶやいていた。 「結葉(ゆいは)が一人でそちらに?」  再度確認するみたいに斉藤が告げた言葉を繰り返したら『はい』と返ってきて。 『山波(やまなみ)さんは今日のことについて結葉(ゆいは)さんから何かうかがっていらっしゃいませんか?』  問われて、(そう)は「いや、何も……」と答えるしかなかった。
/848ページ

最初のコメントを投稿しよう!

735人が本棚に入れています
本棚に追加