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そこで信号が青になって。
想は一旦思考を引き上げると車を発進させた。
***
「やっぱり結葉の手料理は優しい味がして美味しいね」
ベッド横。
ドレッサーの椅子を持ってきて、気持ち夫から距離をあけるようにして腰掛けた結葉に、偉央が静かな声音でそっと話し掛けてくる。
(相変わらず偉央さんは上品な食べ方をなさるな)
そんなことを思いながらぼんやり偉央を見詰めていた結葉は、偉央に淡く微笑みかけられてドキッとしてしまった。
結葉は、偉央の箸を持つ手指のスッと長くて、その所作が美しいところが大好きだった。
結婚前、結葉は見合いの席で偉央が食事をする光景を見るとはなしに眺めて、〝この人となら、毎日三食一緒にご飯を食べてもきっと不快な気持ちにはならないだろうな〟と思ったのを鮮明に覚えている。
結婚してからここ数年は、食事の時すら偉央の顔色を窺っていた結葉だ。
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