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張り詰めた空気の中、偉央がこんな風に綺麗な食べ方をする人だったことすら、いつの間にか見えなくなってしまっていたんだなぁと思って。
(私たち、一体どのぐらい長い間、ボタンを掛け間違え続けてきたんだろう)
そんなことを考えて、結葉は両手で包み込んだ湯呑みをギュッと握りしめる。
最初は熱くてこんな風に持つことが敵わなかった湯呑みも、今は大分中身が冷めて、強く握ってもほんのりと温かい程度にしか感じられない。
「お口に合って良かったです」
答えながら、そう言えば偉央との関係が悪化してからは、自分が作った料理に対して「美味しい」と余り言われなくなっていた気がした結葉だ。
それでも偉央は、結葉が出したものは残さず全部綺麗に食べてくれていたから、不味いとは思われていないんだろうな、程度に感じていたのを思い出す。
「よく考えてみたら、僕は最近キミに『美味しいね』とか『作ってくれて有難う』とか、ちゃんと言葉にして伝えていなかったね。――本当にすまない」
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