735人が本棚に入れています
本棚に追加
/848ページ
まさか偉央も同じことを想起していただなんて思わなかった結葉は、半ば無意識に伏せ気味にしていた顔を上げて、偉央をじっと見詰めて。
「ん?」
偉央に小首を傾げられてしまった。
そのことにビクッとして、「な、何でもありません」と目を逸らして。
湯呑みの中でフルフルと揺れるお茶の水面に視線を落とした結葉は、その揺れに励まされるように再度顔を上げた。
「私も……」
小さくつぶやくように結葉が口を開いたのを、偉央が何も言わずに聞いてくれている。
それにホッとしたように、結葉はポツンポツンと言葉を続けた。
「私も……偉央さんと同じことを思っていたので少し驚いてしまいました」
言ったら、「そっか……」と自分を責めるでも結葉に同調するわけでもなく、ただただ静かな声音が返ってくる。
今日の偉央は本当に穏やかで。
結葉はほんの少しだけど肩の力を抜くことが出来ている自分にちょっぴり驚いてしまう。
(こんな風に凪いだ気持ちで偉央さんと話が出来たのは何年振りだろう)
そう思ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!