34.出て来ない結葉

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 まさか偉央(いお)も同じことを想起していただなんて思わなかった結葉(ゆいは)は、半ば無意識に伏せ気味にしていた顔を上げて、偉央(いお)をじっと見詰めて。 「ん?」  偉央(いお)に小首を傾げられてしまった。  そのことにビクッとして、「な、何でもありません」と目を逸らして。  湯呑みの中でフルフルと揺れるお茶の水面(みなも)に視線を落とした結葉(ゆいは)は、その揺れに励まされるように再度顔を上げた。 「私も……」  小さくつぶやくように結葉(ゆいは)が口を開いたのを、偉央(いお)が何も言わずに聞いてくれている。  それにホッとしたように、結葉(ゆいは)はポツンポツンと言葉を続けた。 「私も……偉央(いお)さんと同じことを思っていたので少し驚いてしまいました」  言ったら、「そっか……」と自分を責めるでも結葉(ゆいは)に同調するわけでもなく、ただただ静かな声音が返ってくる。  今日の偉央(いお)は本当に穏やかで。  結葉(ゆいは)はほんの少しだけど肩の力を抜くことが出来ている自分にちょっぴり驚いてしまう。 (こんな風に凪いだ気持ちで偉央(いお)さんと話が出来たのは何年振りだろう)  そう思ってしまった。
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